幼児教育の「全面無償化」よりも大切なこと

写真=ポピンズ提供


待機児童の8割が0〜2歳児で、かつ首都圏に集中していることを考えると、大きな園庭を有して就学前までの幅広い年齢層の子どもたちを保育する公立施設を増やすよりも、園庭がなくても止むを得ず、一定の基準を満たした0〜2歳児用の施設を増やしていく方が現実的に見える。

実際に筆者の第一子は、東京で認可保育園へ入れず2歳まで私立の認証保育園にお世話になったが、近くの公園へ頻繁に散歩に行くなどしており、園庭がなくとものびのびと育っていた記憶がある。

しかしここには、思いがけない障壁が存在するという。轟氏によれば、「既存の制度が、社会福祉法人による保育所設置を前提としているため、株式会社立では、候補地探しから建物の整備、運営費に到るまで、過度な負担が強いられるケースが多い」。

例えば、保育園用地については、市区町村の所有地を社会福祉法人に限って無償貸与する募集形態もあり、躯体整備費についても、社会福祉法人とそれ以外では補助率に大幅に差がある自治体が残っている。自治体によっては、社会福祉法人に限って運営費補助が出るところもあるようだ。

個人的には、これだけの差があったとしても、社会福祉法人が実際に待機児童解消に向けて精力的に保育所設置を増やしているのであれば良いのではないかと考えるが、上記の表を見る限り、そういう状況にはなっていないようである。この背景には、社会福祉法人特有の文化、あるいは、株式会社ならではのスピード感と経営センスが働いているのかも知れないと、別の関係者は話す。



新設しても、担い手がいない


「でも今の緊急課題は 、施設を作ることよりも、担い手を探すことなんです」と轟氏は話す。

担い手不足を補うために、近年いくつかの改革が行われた。まずは保育士の国家資格の試験が年に1回から2回実施に増えた。全体の合格率も、過去10%内外で推移してきたのが昨年は25.8%に増加。加えて、通常保育時間ではない延長保育(早番と遅番)については、1名保育資格保持者がいれば子育てサポーターの職員があたれることになった。

さらには、これまで認可保育園においては100%(認証保育園においては60%)の保育従事者が、保育資格を有していることが義務付けられていたが、3歳以上では幼稚園教諭の免許、5歳児以上では小学校教諭免許取得者でも保育に当たることが認められたという。

「それでも全く足りない」というのが少なくともポピンズの状況のようである。轟氏はその原因として、1. 自治体ごとに規制緩和の実施状況が異なること、2. 保育士資格を持つ職員比率の義務づけが依然として厳しいこと、3. 他の職業と比較して処遇が低いこと、をあげてくれた。

まず驚いたのが、自治体が規制緩和の実施を阻んでいる事例があるという事実だ。上述のように、国の政策として幼稚園教諭や小学校教諭の免許でも保育資格と同等にみなすという規制緩和が行われたにもかかわらず、自治体レベルでこれを阻むところが少なくないというのである(初等中等教育における、特別教員免許も似たような状況にあるため、想像に難くない)。
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文=小林りん

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