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では、この画期的な中国式シェアサイクル事業は日本で支持されるだろうか。

まず中国企業はどうやって収益を得ているのか。中国の友人によると「最初に利用者から預かる保証金の金利ビジネスですよ」とのこと。これほど安価でサービスを提供するビジネスが超スピードで拡大したのも、どれだけ利用者を集められるかに事業の成敗がかかっていたからだという。昨今の中国では投資規模が破格だからこそ実現できたわけだが、低金利の日本ではちょっと考えにくい。

さらにいえば、いまの中国の経営者の考え方も強く反映されている。新興企業の経営者は新しい市場が生まれると、いち早く参入し、そこそこのシェアを獲得しておけば、どこかの時点で大企業に買収してもらえると考えているふしがある。そうすれば、事業自体に利益が出ていなくても、売り抜けてひと財産築ける。



世界に自らの先進性を誇りたい中国政府は、3月上旬に開かれていた全国人民代表大会の記者会見でも「共享単車」ビジネスの支持を表明。この国では成功したビジネスの背後にたいてい国家の後押しがある。
一方、資金力のある大企業も、最初は利益度外視で市場拡大にひた走る。そのうち大半の中小企業はふるい落とされ、結局は大手の寡占状態となるから、利益を取るのはそれからでいい……。このように中国のビジネスシーンが展開していくさまは、一時は群雄割拠だった配車アプリも「滴滴出行」が一強になったことからわかるだろう。

そもそも日本の一般の人たちにとってシェアサイクルにどれほどニーズがあるのだろうかという疑問もある。たいてい自分の自転車は持っていて、生活圏ならそれを利用するだろうし、職場の近くにあったとして、実際にはいつ乗るのだろう。

最近、都内の一部の区でドコモなどによるサービスが開始されていて、サラリーマン風の人がシェアサイクルで横断歩道を渡っている光景もちらほら見かける。とはいえ、放置自転車問題が取りざたされる日本の都市部では、中国のように「どこでも乗れて、どこでも乗り捨てできる」わけがない。せいぜい「ICカード・おサイフケータイ対応」で「複数ポートで貸出・返却可能なレンタサイクルが増えてきた」という話である。


むしろ、このサービスは住民向けというより、ツーリスト向けではないだろうか。これからも増えそうな外国人観光客もそうだが、地方から東京に遊びに来た人や国内各地の旅行先で使えたらうれしいサービスだろう。

日本の場合、観光地にこそ求められている気がする。たとえば、まず外国人向けに優先的に普及を進めた後、彼らが街で利用している姿を見れば、乗ってみたいと思う日本人も増えるのではないか。そういう動機付けや普及のプロセスをたどるのが無理がないように思える。

どれだけ優れたサービスも、中国と日本の社会の違いを考慮せず、そのまま同じ仕組みを導入しようとしても、うまくはいかないものだ。それはお互い様の話。上海でシェアサイクルを見たとき、最初に頭に浮かんだのは、1990年代に「やがて世界は歌い出す」という浮かれたコピーとともに世界に広まった日本式カラオケのことだが、それほどたやすくはなさそうだ。

文・写真=中村正人

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