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2017.11.04

ベストセラー作家、マイケル・ルイスに聞く「ヒット創作の秘密」

マイケル・ルイス(イラストレーション=マグダ・アントニウク)


──スティーブ・ジョブズは直観や情熱の大切さを強調していましたが、あなたの著書は、直観を疑うよう説いています。

ルイス:直観を信じつつも検証し、賢明さを保つ用心深さが必要だ。得意なものを見つけ、追求することには真の価値があるが、自分が本当に好きなことは何か、なぜ好きなのかを自問すべき。これは、まさに私が本を書くときの手法であり、そのテーマに没頭しながら、自分が書いていることに問いかけ続ける。

直観に従いつつ、道を踏み外さないよう注意する。居心地が悪くても、自分が間違っているかもしれないという不確実性と共存していくべきだ。

──執筆テーマはどう探すのですか。

ルイス:たいてい好きな登場人物を見つけることから始まるが、アイデアにも関心がある。その融合といった感じだ。自分からテーマを探しにはいかない。人生を過ごすなかで多くのことに出合ううちにテーマが向こうからやってくる、とでも言おうか。


バークレーにある自宅の書斎にて。

作風について、自分に冒険を課すようなことはない。しょせん、自分の作風でしか書けない。問題は構成だ。素材が生きるような論の組み立て方を考える。エンディングを頭の中に描いてから書き始める。辛口な人物描写にも優しさがあると言われるが、それは、温かさを感じられない人は取り上げないからだ。温かみのない人と多くの時間を過ごし、取材するのは難しい。

今、関心があるのは米政府だ。世界史上、重要なことが起こっている。看過できない。以前、シリコンバレーの本も書いたが、今は自分に合うテーマが見つからない。

1冊の執筆で何人取材すればいい、という目安などない。要は人数ではなく、そのテーマを十分に理解したかどうかだ。『かくて行動経済学は生まれり』では400人くらいに取材したが、そのテーマの「達人」になったと感じるまで続ける。そして、きつい締め切りを定める。

──日本の読者にメッセージを。

ルイス:『ライアーズ・ポーカー』(1989年)出版後、小説の執筆で1990年に東京に半年間、滞在した。小説は完成しなかったが、とても楽しい時間だった。賞をもらい、皇居に行ったこともある。もう15年、日本を訪れていないが、また行きたい。

どうかアメリカへの信頼を失わないでほしい。日本に迷惑がかからないよう、米国社会の問題はきっと私たちで解決する。


マイケル・ルイス◎ノンフィクション作家・金融ジャーナリスト。1960年、ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれ。プリンストン大学卒業後に入社した投資銀行「ソロモン・ブラザーズ」で債券セールスマンとして勤務。同社での経験にもとづくデビュー作の『ライアーズ・ポーカー』で一躍注目を集めるや、次々とヒット作を連発。金融業界から野球に至るまで、新たな潮流をいち早くストーリー仕立てで紹介し、社会現象を起こしてきた。最新刊『かくて行動経済学は生まれり』は好評発売中。

インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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