ビジネス

2017.11.02

面白いから未来に張る! KDDI田中孝司 x ソラコム玉川憲

KDDI代表取締役社長、田中孝司(右)と ソラコム代表取締役社長、玉川憲。


ーこのM&Aの経営戦略上の狙いは?

田中:さきほど話した通信とインターネットの歴史から考えれば、今のIoT時代は、通信屋とコンピュータ屋が、モバイルという領域でコラボレーションしている状態です。こうやって、テクノロジーの世界はどんどん進んでいくので、ソラコムのようなM&Aをした企業から学ぼうと思っています。

一方、時間がかかると覚悟しているのは、ビジネスサイドです。KDDIは、「au経済圏の最大化」という文句を謳って、通信企業からライフデザイン企業になろうとしているので、食品、日用品、電気、生命保険、損害保険、ローンなど、通信屋がやってこなかったビジネスをたくさんはじめています。

「通信屋がいきなり保険を売ったりできるのか」という声もありますが、確かにその通り。我々は通信しかやってこなかったし、セールスは、顧客のインサイトをいかに知っているかいう「経験」が大切。だから、ビジネスサイドはいま、チャレンジを通して経験を蓄積していく段階なんです。その後、やがてビジネスサイドとテクノロジーサイドの要件が合うタイミングがやってくるはずです。

KDDIはその時、本当にイノベーションが生まれるステージに移動する。そんなふうに思っています。

玉川:日本のスタートアップの世界には、「IPOしないとダメだ」という風潮があり、今回のM&Aも「IPOを諦めた」と思われることもあります。でも、ソラコムにとって、大切なのは、日本発でグローバルのためのモバイルIoTプラットフォームを作ることで、その手段はなんだっていいのです。では、なぜKDDIグループへの参画を選んだかといえば、それはいま、ソラコムが打つ次の一手として、最適だったかからです。

私は、日本でシリコンバレー型のテクノロジースタートアップとして事業を展開したかったので、創業当初から資金調達をし、その投資によって会社を急成長させてきました。これから、グローバルに通じるIoT通信プラットフォームを実現するために、いま必要なのは、シリーズCの資金調達なのか、それともIPOやM&Aなのか。そう考えた末に選んだのが、KDDIグループに入ることだったというわけです。

M&Aの事業戦略上の主な利点は、1. KDDIからのテクノロジー面で支援を受けられるので、私たちのエンジニアは、キャリアだけが持つセルラーLPWA/5Gといった次世代システムを使って、開発をいち早く進められること。2. KDDIグループの一員となることで、海外でより安いデータ料金を実現するために役立つ、グローバルでの交渉力が高まることです。

つまり、KDDIグループへの参画は、「イグジット」ではなく、単独では届かない領域に道を拓く「エントランス」といえるのです。

田中:11年にはじめた「KDDI∞Labo」(ムゲンラボ)など、スタートアップ支援プログラムをやってきましたが、こうした活動は儲かる、儲からないというものではないのです。我々も、大企業の利点を活かしてハンズオンで支援しながら、たくさん学ばせてもらいました。徐々にスタートアップとパイプラインができ、うまくコミュニケーションがとれるようになるのです。

ソラコムのM&Aも、そうした活動の延長線上にあります。KDDIと決算が連結されるためのガバナンスの強化以外では、特に経営に口出しをするようなことはありません。
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構成=藤吉雅春、山本隆太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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