大火災では役に立たない「人工雨」の残念な事実

大規模な山火事が発生したカリフォルニア州。写真は、ナパの住宅地。(Photo by David McNew/Getty Images)

金さえあれば、天気すら自由に操ることができる。最も多く使われるのは、人工的に雨を降らせる「クラウド・シーディング(cloud seeding)」と呼ばれる技術だ。映画「X-MENX」シリーズに登場する「ストーム」には及ばないが、特別なイベントがある日を晴天にしたり、敵国に大雨を降らせることが可能だ。

ヨウ化銀を飛行機から雲に散布したり、大砲で打ち上げると、雲の中の過冷却水と衝突して氷粒が生成される。氷は、地上に到達するまでに溶けて雨となる。雨を降らせる方法は他にもあるが、基本的な仕組みは同じだ。欧州の企業、「Oliver’s Travels」によると、費用は13万1000ドル(約1500万円)だという。この技術を用いれば、大事なパーティーの前に無理矢理雨を降らせて雲を取り除き、イベント当日に晴れを確保することができる。

「効果は実証されており、特定の条件が揃えば降雨量を10-15%増やすことができる」とアメリカ大気研究センターの科学者であるRoelof Bruintjesも述べている。

先日カリフォルニア州北部で発生した大規模な山火事では、4万エーカーが焼失し、42名が犠牲となった。少なくとも8400軒もの住宅が全焼し、約10万人が家を失ったとされる。大気汚染を示す指標は、1週間以上に渡って「危険」レベルに達しており、学校は閉鎖され、住民はマスクの着用が推奨されている。

10月19日にようやく大雨が降り、大気汚染はある程度解消され、山火事の一部が鎮火した。しかし、なぜシリコンバレーのビリオネアたちは、協力して人工的に雨を降らせようとしなかったのだろうか。ロシアは、130万ドルを費やして祝日を晴れにしていると噂されるが、彼らにできてカリフォルニアでできなかったのはなぜなのだろうか。

2016年のレポートによると、カリフォルニア州には全米で最も多い124人のビリオネアが在住している。彼らの資産を合計すると、5324億ドル(約60兆円)に達するという。彼らは、プエルトリコがハリケーンで甚大な被害を受けた際には積極的に支援を行った。イーロン・マスクは、25万ドルとテスラ製充電池を寄付し、マーク・ザッカーバーグは150万ドルを寄付して、自社のエンジニアを現地に派遣した。

彼らが、地元での山火事でクラウド・シーディングの費用を寄付しなかったのは不思議だが、専門家によると、今回のケースでは役に立たなかった可能性が高いという。

大規模な山火事では対応不可能

2016年にカナダのフォートマクマレーで山火事が発生した際、ワイオミング大学で大気科学を専門とするTerry Deshler教授は、クラウド・シーディングの効果について、「煙の粒子の影響で雲粒が十分に育たず、雨を降らせるには至らない」と述べている

カリフォルニアの山火事でも、この時と同じことが当てはまる。無駄骨に終わる可能性が高いのであれば、コストと手間を他の用途に使った方が賢明だ。

カリフォルニアでも、サンタバーバラやタホ湖など、多くの場所でクラウド・シーディングは行われている。サクラメントでは、2014年に干ばつ対策として月間2万5000ドルがクラウド・シーディングに費やされた。

しかし、人工降雨技術はまだ不確実性が高く、山火事対策に用いるには時期尚早だと言える。「雨を降らせるのに理想的な雲がない確率の方が高い。特に山火事では雲がないことが多く、その場合には手の施しようがない」と気象学者のBill Woodleyは述べている。

編集=上田裕資

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