危機管理経営に必要な「悪魔の参謀」

(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)


CRO(危機管理担当役員)不在の日本

翻って、日本を代表する大企業の崩壊が続いている。「こんなはずではなかった」が連発する時代だ。それは、自然災害やミサイルなどの突発危機への対処だけではなく、事業環境の変化への遅れ、契約内容の交渉力の弱さに伴う過剰なリスク負担、消費者に感動を与える商品開発と世界に先駆けた市場投入、業界ルールづくりのリーダーシップの欠落など、失った20年を挽回することは極めて難しい状況にある。

おそらく、日本社会全体がリスクの取り方が下手になったのだろう。国民も企業も国家もリスクを取らなくなった。リスクを取らずに、マージンを抜き、そしてコストカットをすることばかりに注力してきた。また、それを推奨するかのような過剰ともいえるコンプライアンスや、社会のピアプレッシャーがかかり、リスクと対峙することなく、安心を安売りしてきた。

それを端的に示すのが、CROの設置状況である。CROの設置状況は英米は70%、日本は8%との報告がある。Chief Risk Officerとは、危機管理担当役員を意味するが、日本企業には経営における危機管理の責任者がほとんどいない。

ここでいう危機管理経営とは、労働安全衛生、コンプライアンス、防災対策といった法的要求に応えるものや、形骸化したリスク管理委員会とは質が異なる。また、ほとんどの日本企業の危機管理の担当役員が望むことは、「私の任期中にだけは、何事も起こらないでくれ…」というものだ。高額なコンサルティングフィーを払って、記者会見の練習、謝罪時の頭の下げ方、答弁の振り付けなどのスキルを身に着けている。これが現状だろうが、理想的な危機管理の経営からは程遠い。

まして、悪魔の参謀は存在しない。このような思考や発言をする人物は、嫌がられ、変人のラベルを張られ、蓋をされる。

VUCA時代をどう生き抜くか

V:Volatility(変動性)、U:Uncertainty(不確実性)、 C:Complexity(複雑性)、A:Ambiguity(曖昧性)という経営用語が最近頻繁に使われている。現代社会の理解しがたい複雑さ、相互依存性、不安定性を直視するきっかけを組織の中に意図的に組み込み、常に組織的な学習ができる環境を構築することのマネジメント能力が試されているようにも思う。自己否定できる勇気、自らの弱さを自ら知ることの価値を分かっている組織、未来志向で自社を再定義できる組織は、今の時代こそ面白いのだろう。

外向きには変革や革新を宣言し、外装を整えながらも、実際は内向きな先例と慣習を踏襲し続け、取り返しのつかないところまできて問題が明るみに出てしまう事例は、ここ数年の日本企業に頻発している。組織内に意識的にレッドチームを構築し、危ない問いを片手に、かつ丁寧に対話をしながら、組織戦略と組織能力のレジリエンシ―を高めて頂きたい。

経営の現場にクリティカルシンキングを持ち込み、経営層の自信過剰(という名の安全神話)・経営計画の脆弱性・集団志向などの危険から遠ざける能力を十分に引き出すためにはどうしたらよいのか。現状認識の多様性確保、戦略オプションの複数所有、長く生きく組織能力の構築を、組織の頭脳から揺さぶる上手さや刺激をどのように担保するのか。

まずは読者の今日の仕事や所属組織が存在する・在るということの、そもそもの前提から疑ってみてはいかがだろうか。

リード=ForbesJAPAN編集部

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