かつての「AI大国」北朝鮮が失速、要因はハードウェアと資金不足

shutterstock.com

韓国・産業銀行KDB未来研究所が、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の人工知能(AI)開発動向に関するレポート「北朝鮮の人工知能開発状況と展望」を発表した。

北朝鮮はかつて、世界規模のコンピュータ囲碁大会を制覇するなど、AI技術で大きな成果を挙げてきた。しかし、国内経済状況の悪化と国際社会の制裁などの要因により、技術開発に限界が露呈しはじめているとレポートは指摘している。

1990年代まで北朝鮮のAI開発の拠点となっていたのは、ソフトウェア研究機関「朝鮮コンピューターセンター」だった。しかし2015年からは、国内AI関連の研究組織が改編さており、各機関別にAI研究が進められている。

例えば現在では、情報産業指導局傘下の「人工知能研究所」はゲーム関連AI、手話認識・学習プログラムなどを、朝鮮コンピューターセンター傘下の「チョンボン情報センター」は工場自動化設備の開発を、「オウン情報センター」は指紋・顔認識関連技術の開発を、「平壌コンピュータ技術大学」は翻訳プログラムなど学術関連技術開発をそれぞれ担っている。

レポートは加えて、北朝鮮の主要AI開発成果として、囲碁AI「ウンビョル」と音声認識ソフトウェア「竜南山」を挙げた。

ウンビョルは、朝鮮コンピューターセンターが1997年に開発した囲碁AIだ。日本・科学技術融合振興財団が主催する世界コンピュータ囲碁大会では1998年に初優勝を飾り、2003〜2006年に4年連続優勝、2009年に全勝優勝など、2010年頃まで世界トップレベルの性能を誇ってきた。

しかしディープラーニング技術の世界的な普及により、北朝鮮のAI競争力にも陰りが見え始めている。というのも、最新のAI技術を支える大規模なハードウェアが不足しているためだ。

例えば、ウンビョルの最新バージョン「ウンビョル2010」のCPU数は16個だが、2016年3月に韓国イ・セドル9段を下した「アルファ碁」には、 1920個のCPUおよび280個のGPU(グラフィックスプロセッシングユニット、ともに)が採用されていた。

なお北朝鮮にもディープラーニングを適用したAIがある。音声認識ソフトウェア「竜南山」だ。しかし性能のほどは不明。人々の生活にどう使われているかという点も、いまだベールに包まれたままだ。

最近のAI技術競争においては、大規模な並列演算装置を確保しつつ、膨大な資料を入力させ学習能力を向上させる工程が肝となってくる。しかし、北朝鮮には世界レベルに追いつくためのハードウェアに投資する余力が不足していると同レポートは分析している。

加えて北朝鮮には、ワッセナー合意などと関連して、高度な技術および設備の輸入が困難な実情がある。レポートはそれらの背景から「北朝鮮のAI技術開発は限界に直面するだろう」と結論づけた。

北朝鮮のAI開発動向がレポートとしてまとめられる機会はそれほど多くない。そのため、同レポートが持つ価値は非常に高いと言える。それでも、まだまだ明かされていない側面は多いだろう。実際のところ、北朝鮮のAI開発はどこまで進んでいるのだろうか。ミサイルや潜水艦などの軍事技術開発動向に加え、非常に気になるテーマだ。

文=河鐘基

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事