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2017.11.08

業界を脅かす、孫正義の「起業家的」投資術

Photo by Tomohiro Ohsumi / Getty Images

テクノロジーファンドとしては前代未聞の資金規模で昨年10月に設立されたソフトバンク・ビジョン・ファンド。この1年で、彼らは業界にどのような衝撃を与えたのだろうか。

前回の記事では、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの凄さはアーリーステージの企業にレイターステージ並みの金額を出資している点だと言いました。その背景には、情報化の促進によってアイデア自体に価値がなくなってきたことで、オペレーション能力の重要度が増していることがあります。

ゴールになるアイデアは分かっている。それが実行できそうでステージ早期のチームがあれば、最初からレイターと同じように数百億を出すことで競争が生まれる前に決着をつけられるということです。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先から、この点を具体的に見てみます。

例えば、彼らは5月、イギリスのインプロバブルという従業員100名に満たない会社に5億ドル近く出資しました。AIを使った巨大な環境シミュレーターを作っている会社です。このシミュレーターがどういうものかを理解するには、ゲームを思い浮かべればわかりやすいでしょう。例えば「モンスターハンター」はオープンな世界が広がるゲームに見えるけど、実際はある程度制限されたエリアの中に敵が何体か配置されていて、その中で動いているだけなのです。

我々の世界もこれと同じなんです。いろんなものが原因と結果として作用し合っているけど、複雑すぎて実態は良く分からない。いまのゲームはエリアごとに決められたルールの中で展開されているだけですが、ゲームをさらに発展させると地球のように誰かが戦争を始めたり、工場を作って二酸化炭素を大量に排出したりすることが、相互に影響を与えあうような世界ができあがる。インプロバブルは、ゲームの世界を本物の地球のような巨大な環境シミュレーターに仕立てたAIを作ろうとしているのです。

昔からこういうアイデア自体はありました。「シムシティ」が分かりやすいと思いますが、世界中の人たちがいろんなところで街を作っている世界で、別の街が環境汚染を始めたら自分の街にも影響が出てしまいます。こういう予測ができない事態って、めちゃくちゃ面白い。インプロバブルは、AIを主体にしてこういう要素を取り入れた巨大な環境シミュレーターを作ろうとしています。

これがゲームを大きく変えるのはもちろんですが、さらに成長するとあらゆる領域を変えていくはずです。VR技術に応用可能なので、VR空間の中である種のセカンドライフ的な世界を作ることができるでしょう。全てをセーブできるから、例えば東京の交通渋滞を失くすために、新たに作る道の影響を環境シミュレーターで調査することだって可能かもしれません。複雑な世界のシミュレーションは、あらゆる分野ですごく重要なのです。

昔からクラウドゲームの概念はあったのですが、これができるようになったのはAIが進化した最近のこと。間違いなく重要だからそれを作ることができる最前線の人達に、ドカッとお金を出せば勝負は決まりますよね。
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文=國光 宏尚

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