ビジネス

2017.10.28 11:30

シリコンバレーの裏事情 「社内カルチャー」が企業の明暗を分ける

マーク・ザッカーバーグ(左)とトラビス・カラニック(右)Gettyimages.com


渡辺:話は変わるけど、トップとして起業当初と比べてすごい変わったのはマーク・ザッカーバーグじゃないかな。
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奥本:映画「ソーシャルネットワーク」のマークはかなり傲慢でちょっと嫌なやつだったけど、シェリル・サンドバーグを2008年にCOOとして採用して、取締役会にベテランを据えて、社会的なメッセージ性のある素晴らしい会社のCEOに成長したよね。たぶん、今はこの辺で一番うまく経営されてる会社じゃないかな。

渡辺:ちなみにフェイスブックができて数年、マークの名刺の役職は「黙れ、俺がCEOだ」みたいなのだったはず。当時ミーティングした人が驚いていた。

奥本:確かに、今、彼がフェイスブック上で発信している「良きコーポレート・シティズンであれ」的なイメージとはほど遠いものだったよね。フェイスブックが上場するときも、いろいろとスキャンダルがあってちょっと拝金主義的なイメージがあった。いつ頃からかな、彼が社会派になったのは……。
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渡辺:結婚したあたりからじゃない?

奥本:だよね。プリシラ・チャンは素敵だと思う。彼女のインタビューをたくさん観たり読んだりしたけど、どれもすごく共感を覚えた。マークはプリシラの家族とコミュケーションするために中国語を学び始めたとか。お互いへの尊敬と愛が感じられるね。夫婦関係が対等な感じがするのが好感が持てる。

渡辺:シェリルもいろいろと尊敬に値する人だよね。禍福は糾える縄の如しって感じの運勢だけど。

奥本: 彼女は最愛のパートナーを亡くしてからがすごい。これまでは、才能や運に恵まれたピカピカのエリート女性というイメージだったけど、デイブが亡くなった後の哀しみや苦しみをパブリックな場で表現するようになって、いろいろと苦悩しながら頑張っている女性という面が垣間見られて、身近に感じられるようになった。

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フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(Photo by Jerod Harris/Getty Images)

渡辺: フェイスブックの人事系の人が「トップ2人がすごすぎて、社員が『あの2人ほどにはなれないからほどほどで』的に思いがち。よりハイレベルなやる気を持ってもらうにはどうしたらいいかが悩み」と言ってたけど、いろいろ出来過ぎでも問題があるもんなんだね。

ちょっとまた話が飛ぶけど、スティーブ・ジョブズも晩年はかなり丸い人になっていたらしい。アップルの人が、会議でジョブズにダメ出しされて、でも会議の後にジョブズが彼のところにきて「さっきは一方的に言って悪かったね」みたいに謝られたと驚いてた。昔はそんなことは絶対に言わない人だったようだ。うっかりエレベーターで乗り合わせて、ジョブズの逆鱗に触れてクビになった気の毒な社員もいたみたいだし。しかも理由が「とっくに終わった昔のことを顔を見たら思い出した」とか……。

奥本: 老舗のマイクロソフトも、創業メンバーのスティーブ・バルマーからサティア・ナデラにトップが交代してから、カルチャーがずいぶん変わったと言われているよね。

渡辺: サティアになって出てきた結果はスティーブ・バルマーが仕込んでた案件も多い、ということもあるんじゃない?

奥本: スティーブ・バルマーも実際会うとすごくいい人なんだよね。体育会系のコーチっぽい感じ。サティアはムードメーカー的な人みたいね。インドの中高時代からサティアと幼馴染という知人が言うには、彼は勉強では天才型ではなかったけれど、いつもまわりに人が集まっていたと言っていた。敵をつくらずに、クラス全体をまとめていくタイプのリーダだったらしい。

渡辺: 確かにマイクロソフト、外向きにはかなり変わった感じがするよね。

奥本: そう。これまではウィンドウズとオフィス製品で市場を独占して事業拡大してきたけど、オープンイノベーションの波が押し寄せて、外部とのコラボレーションを奨励するカルチャーにシフトした。基幹ビジネス以外の部分でマイクロソフトがあまり得意としていない分野はスタートアップなんかともコラボレーションしながらイノベーションを推進していくというアプローチに変わったみたいよ。AndroidやiOS向けのアプリもリリースしてるしね。

渡辺: 社内の雰囲気もかなり変わったのかな?

奥本: 戦略もカルチャーもCEOの性格が反映されると思うの。オープンイノベーションを標榜して他の会社とコラボレーションをしていくためには、まず社内のコラボレーションを推進しなければ。

マイクロソフトほど大きな会社になると、会社にとっては素晴らしいアイディアであっても、幹部同士の利益相反でつぶされたり、社内政治に負けた人がバジェットをつけてもらえずに実現しなかったりということが多発しがちだよね。特に、メジャーな製品ラインごとに独立した会社組織のようになっているとタコツボ化しがちで横連携することは少ない。実は、スティーブ・バルマーもその問題点には気づいていて、改善に着手しようとしていたらしいけど……。

サティアが指揮をとるようになってから、まず幹部レベルでオープンなコミュニケーションをするようにして、それでビジネスが前進する事例を社内に示し、コラボレティブなカルチャーを下に降ろしていったらしいよ。

”Organizational culture eats strategy for breakfast, lunch and dinner(戦略が伸るか反るかは、社内カルチャーで全てが決まる)”はドラッカーの言葉だけど、これまで米国大企業に勤めた経験からこれは名言だと心から思うよ。

文=渡辺千賀、奥本直子

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