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2017.10.26

横浜も広島も・・・「ダ・ゾーン」CEOがすべてに答えた!

筒香のホームランで熱気に包まれる横浜スタジアム (c)YDB


その中でも目玉は、やはり今回話題となった独占配信のJリーグだ。CEOのラシュトンによれば当初、業界の反応は冷ややかだったという。

「記者会見や報道を見ていると、懐疑的になっているなと感じました。記者の中には、『有料テレビのことをわかってない、こんなビジネスは絶対日本では通用しない』と言う人もいました」

その根拠は、スカパーのJリーグチャンネルの契約者数が約20万人だったことによる。20万人では、支払った額に見合うリターンは期待できない。DAZNは観戦の妨げにならないよう中継中、CMは流さない。収入は、会員への課金のみだ。となると最低でも200万人以上の必要だと言われている。


2014年のサッカーW杯で優勝したドイツ代表。チームのデータもパフォームグループが手がける(photo by Getty Images)

ただ、単純に放映権を買っただけ、と捉えれば高額かもしれない。しかし、中村俊社長のこの言葉を聞けば「10年2100億円」の真意が見えてくる。

「みなさん、2100億円も出して元は取れないでしょうと言いますが、それは(加入者)20万人で計算しているから。パフォームの分析チームのリサーチによれば、日本にサッカーファンは3200万人くらいいるらしい。そのうちJリーグのファンは1300万から2000万いる。つまり、まだ伸びしろがある」

優勝チームが数チームに固定化している欧州リーグと異なり、Jリーグは毎年のように優勝チームが入れ替わる世界的にもまれなリーグだ。そこが人気の秘密でもある。

放映権ではなく、「投資」

「私たちとしては放映権を買ったというよりも、そんなJリーグに投資したという感覚なんです。一緒にJリーグを盛り上げていきましょう、そうすれば、われわれがねらっている加入者数を取れるという考え。だから、10年という長期契約に至りました」

まずは映像改革に着手した。中村社長は続ける。

「日本のサッカー中継の技術は、ヨーロッパに比べると10年遅れている。それをプレミアリーグと同じような迫力あるものにしたい。そこはガイドラインをつくって、こう撮影してくださいと協議していきます。それらの製作費も込みで『10年2100億』という金額を提示したのです」

これまで1試合あたり6台だったカメラを9台に増やした。注目カードについては、スーパースローモーション用のカメラも含め16台設置する。またJリーグとNTTグループと共同で各スタジアムにWi−Fiステーションを設置し、他スタジアムの途中経過など、さまざまな情報をスマホで入手できる「スマートスタジアム化」も進めていく。

世界的スポーツ総合企業でなければ、これだけスケールの大きな金銭的サポートと、技術的なアドバイスはできまい。しがらみの多い日本プロ野球界の、特に伝統的なセ・リーグに所属する広島とDeNAがDAZNと契約を結んだのも、その魅力ゆえだろう。中村社長が振り返る。

「いろいろなお話をさせていただいて、ようやく契約が成立しました。たとえば、ネット中継であれば、視聴者が何時間何分視聴したかという詳細なデータまで取ることができる。そうしたデータがあれば、新たなプロモーションにつなげられますし、パフォームグループ内では、相手チームのデータや選手の動きを分析するサービスも行っています。必要であれば、そうしたこともできると説得しました」




これまで日本では「スポーツは儲からない」というのが定説だった。ひと昔前まで、日本最大のスポーツ産業であるプロ野球界でさえ、巨額の放映権を得ていた巨人以外はどこも実質的には赤字だったのだ。それを親会社が広告費等で補填し、帳尻を合わせていたに過ぎない。

その頃に比べればソフトバンクなど独立採算を達成する球団も増え、プロ野球界は格段の進歩を遂げた。しかし、同じ野球でも、国内独立リーグは青息吐息だ。マイナースポーツの球団も、小口のスポンサーを人海戦術で集めるなどし、存続のために涙ぐましい努力を続けている。放映権料など、夢のまた夢だった。そんな中、ネットTVは、日本スポーツ界の救世主となりうる可能性を秘めている。

従来のメディア業界の住人と、ラシュトンらネット配信業の住人から見た日本の景色はまったく違う。
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文=中村 計 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN CxOの研究」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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