横浜も広島も早くからスタジアム改革でファンを増やす努力に取り組み、観客を楽しませる工夫を続けている。かつてセ・リーグの球団は巨人戦の放映権料に頼る経営をしていたが、そうした時代は遠い昔になりつつある。野球に限らず、スポーツシーン全体が、自律したビジネスになろうと、いま、大きく舵を切っているからだ。
そして、いち早く日本のスポーツシーンを「ビジネスになる」と目をつけたのが、イギリスのスポーツ総合企業「パフォームグループ」だった。後述するが、同社の社長はこう語っている。
「世界中を調査しましたが、日本人はヨーロッパやイギリスの人たちと違い、複数のスポーツを観ます。1人の人が、野球もサッカーも相撲もアマチュアスポーツも観るのは珍しく、スポーツに対して情熱的な国なのです」
パフォームグループは、単なるスポーツ中継の配信会社ではない。例えば、2014年のサッカーW杯で優勝したドイツ代表で「12番目の選手」と呼ばれたのは、データ分析を担ったソフトウェア企業SAPだった。SAPに試合中の選手たちの動きをデータとして提供していたのが、パフォームグループである。同グループは、日本でサービスを開始するため、「DAZN(ダ・ゾーン)」を上陸させた。
以下は、高校野球の駒大苫小牧を描いた『勝ち過ぎた監督』(集英社)で、2017年、講談社ノンフィクション賞を受賞した中村計氏に、日本に乗り込んだDAZNをレポートしてもらった。
衝撃的だった。10年で、2100億円─。
昨年7月、スポーツ有料動画配信を手掛けるDAZNは、Jリーグと10年にわたる独占放映契約を結んだと発表。その契約額が、上記だった。ちなみに、Jリーグが昨年まで契約を結んでいたスカパーなどから得ていた1年間の放映権収入は、約50億円だった。単純に計算すると、その4倍である。
世界で約1億4000万人の加入者を誇る米ネットフリックスに代表されるように、これまでインターネットの動画配信といえば、映画やドラマが中心だった。しかし近年、その流れはスポーツの生中継にも及んでいる。「ネット中継はスポーツ中継にとってベストな方法」と、今後のさらなる広がりを口にするのは、DAZN日本社長の中村俊だ。
「ネット中継はチャンネル数の制限がないので、J1からJ3まで、全試合中継できる。視聴者はそこから選べばいい。また、ライブで見逃しても、後から“見逃し配信”やハイライトで視聴できます」
DAZNとは、世界最大級の英国のスポーツ総合企業「パフォームグループ」のいちサービスの名称だ。由来は、アスリートが集中状態に入ったことを意味する「イン・ザ・ゾーン」。パフォームは、生中継やインタビュー番組を制作・配信するだけでなく、英国ブックメイカー向けの動画「ウォッチ&ベット」を手掛けたり、チームや放送局にスポーツデータを提供することもあるという。それらの業務は互いに関連し合っていて、日本では想像できない規模のスポーツコンテンツ企業だ。
DAZNは2016年8月、ドイツ、スイス、オーストリアに次いで、日本でも配信事業を開始。DAZN CEOのジェームズ・ラシュトンは、その理由をこう語る。
「日本は、スポーツに情熱的な国。イギリスだとサッカーファンはサッカーしか観ない傾向があるが、日本のファンはいろいろなスポーツを観る。ただ、日本でさまざまなスポーツの生中継を観ようとすると、ケーブルテレビや衛星中継など、いくつものサービスに加入しなければならない。そうすると、月額も高くなる。その点、OTT(インターネットを介して大容量のコンテンツやサービスを提供すること)なら、アクセスは簡単だし、良心的な価格で提供できるので、チャンスがあると思った」
DAZNのジェームズ・ラシュトンCEO(写真=小田駿一)
DAZNは、Jリーグ以外にも、プレミアリーグやブンデスリーガなど欧州サッカー5大リーグ、日本プロ野球の広島とDeNA、日本バレーボールリーグのVリーグ、さらにはダーツ、釣り、乗馬といったマイナースポーツの放映権も有している。月額1750円で、それら130を超える競技の、年間7500試合にもなるというコンテンツが見放題だ。ドコモ加入者の場合は月額980円で「DAZN for docomo」に加入することもできる。