ビジネス

2017.10.25

フェイスブック幹部がメルカリの参謀になった本当の理由

ジョン・ラーゲリンCBO(左)山田進太郎CEO(右)


3年後の今年4月、日本の事業を現COOの小泉文明に任せ、アメリカ事業に集中した山田は、「2つの課題があった」と言う。アメリカは出品数が多く、回転率も早いが、取引終了後のレビューを書かない人たちがいるなど、「完了率」が低かった。また、遅配など、問い合わせの数も多い。

「お客さんのストレスになっていることはカスタマーサポートやプロダクトで解決できるし、満足度の向上にもつながる。耐え忍ぶ時期と思い、半年かけてフルリニューアルをしました。しかし、もうひとつの問題は、僕にできることではなかったのです」

それは、郷に入れば郷に従えで、人材採用、ビジネス開発、PRなど、アメリカでの事業を推進できる人材をどうするか、である。アメリカでC2Cが活発なのは、言語や民族的な背景が異なる人々の集合体で、サービスやモノの取引が数少ない共通の関わりになるからだ。

山田がアメリカ進出にこだわった理由もここにある。文化的に多様性があり、世界の縮図であるアメリカで受け入れられるサービスこそが、世界進出の第一歩となる。だからこそ、アメリカオフィスの人材、ビジネス開発、マーケティング、PRとすべての機能を強化しなければならなかった。

今年5月、ジョンがサンフランシスコ発ロンドン行きの飛行機に乗っているときのことだ。機内の照明が落ち、うとうとしているとき、ふと気配を感じて見上げると、目の前に山田が立っていた。「ちょっと話そうよ」。同じ便に乗っていることは知っていた。空港でもメルカリの理念を山田が語り、共感してもらえるのなら考えてほしいと促されていた。

2人は暗い機内で空席を探して歩き始めた。1階、2階をすべて歩いたが席はない。ぼそぼそ声で「実はメルカリに行きたいんですよ」「じゃあ、行ける状況を一緒につくろう。何がネックなの?」と対話は続いた。決着点は、複雑な契約条項を彼ららしく「シンプルにしよう」だった。

10月、スマートホーム向けのデバイスを開発する「Nest」や「Google Fiber」など、グーグルでブランディングを担当してきたスコット・レビタンがメルカリ・アメリカのCMOに就任。また、ハーバード大学を出て、YouTubeで仕事をしていたブラッド・エリスの入社も決定した。いずれもCBOのジョンがスカウトした人材である。

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サンフランシスコ中心部に位置するメルカリ米国子会社のオフィス。社内には社員の写真が飾られている。

「大企業が支配的な社会で、大企業を経由しない人と人との直接の取引やつながりが、人々にパワーと創造性を取り戻させる」というジョンの信条に魅力を感じたのかもしれない。

「昨日、僕はフェイスブックに、“ikigai”と題して、いまの生き甲斐を書いたんですよ」と、ジョンは言う。

翌日、彼の投稿に「いいね!」がついていた。その名前を見た瞬間、ホッとしたという。「いいね!」を押した理解者は、かつてのボス、マーク・ザッカーバーグだった。

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ジョン・ラーゲリン◎執行役員CBO。グーグルでAndroidグローバルパートナーシップディレクターなどの重要なポジションを7年間にわたり務めた後、2014年にフェイスブック社のVPに就任。数多くの分野における事業提携業務を統括。17年6月、執行役員CBOとしてメルカリに参画。現在は米国子会社のCEOも務めている。

山田進太郎◎代表取締役会長兼CEO。早稲田大学在学中に、楽天にて「楽オク」の立ち上げなどを経験。大学卒業後、ウノウを設立。「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのサービスを立ち上げる。2010年、ウノウをZyngaに売却。12年に退社後、世界一周の旅を経て、13年2月にメルカリを創業。

文=藤吉雅春 写真=クリスティ・ヘム・クロック ヘアメイク=アン・リーディ

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