成田や関空など国内の主要空港、大都市圏を中心に人知れず中国人の運転する「白タク」が増殖している。沖縄や関西方面では地元のタクシー運転手の仕事が奪われ、「このまま野放しにしてもいいのか」という声もある。
そう言われても…、多くの人には何のことだかピンとこないかもしれない。一般の日本人には見えにくい話だからだ。だが、この問題の背景に、日本のシェアリングエコノミーやモバイル決済の普及の遅れがあると言われればどうだろう。
まずここでいう中国「白タク」について簡単に説明しよう。今日、日本を訪れる多くの中国客は自国で普及した配車アプリを使って、日本在住の中国人の運転する自家用車をタクシー代わりに利用している。一見ライドシェアが実現しているともいえるが、これは「越境EC」ならぬ、「越境白タク」とでも呼ぶべきものである。日本では個人間のライドシェアは基本的に認められていないからだ。営業許可をはじめ日本国内の法やルールはあっさり無視されているのだ。
中国配車アプリサービスの中でも海外展開を積極的に進めているのが「皇包車(HI GUIDES)」だ。
なぜこのようなことが起きたのか。
一般に配車アプリサービスは、スマートフォンで走行中のタクシーを検索し、指定場所まで配車するものだ。中国では数年前から日本に先んじて身近なサービスとして都市部を中心に定着している。ちなみに中国では個人間のライドシェアも条件付きで合法だ。
同サービスを提供する中国企業は自国の海外旅行者の増加を当て込み、自らのプラットフォームを使って国外に事業を拡大し始めた。それが可能となったのも、中国のシェアリングエコノミーが独自の発展を遂げ、世界中で利用可能な決済アプリのWeChat Pay(微信支付)、アリペイ(支付宝)によるモバイル決済が普及したからだ。そして、これが何より肝心なのだが、サービスの担い手である中国人が世界中に存在し、ドライバーをしていることだ。日本以外の国々でも見られる現象である。
中国配車アプリサービス最大手の「滴滴出行」も日本でのサービスを展開している。
主な国際空港周辺で彼らの姿をよく見かける理由に、市内への移動手段のコスト高がある。団体から個人に移行している中国客は家族や小グループが多い。荷物も多く、1台のタクシーでは乗り切れないため、ワゴン車が好まれる。
中国客はたいてい自国で予約決済をすませているので、日本でドライバーに支払いをする必要はない。土地勘のない海外でもボラれたり、騙されることもない。ドライバーは中国の配車アプリ企業に登録されており、素性が知れているからだ。なんとよくできた仕組みだろうか。そのため、この違法サービスは、皮肉なことに、中国客をまだ外国客の少ない地方の観光地に運ぶ貴重な足にもなっているのだ。