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2017.10.26

野放し「中国人白タク」で見えた、日本の遅れ

首都圏では羽田空港や成田空港の国際ターミナルに乗りつけている中国「白タク」の姿をよく見かける。



利用日時や行先、希望の車種などを入力すると予約から決済までできる。空港の送迎以外にも、富士山1日ドライブコースなどもある。

実は、日本を訪れた中国の友人が予約した「白タク」に同乗したことがある。ドライバーは日本在住の中国人なので、普通に日本語を話すし、友人も中国人同士、気軽に会話を楽しんでいる。営業許可のない自家用ワゴン車だが、中国客はそれが違法と知るよしもなく、「日本のタクシー代は高すぎる。配車アプリほど便利でお得なサービスはない」と話す。

最近の中国人には「自分たちは当たり前のようにこのサービスを利用しているが、日本は遅れている」との思いがある。一方、事情を知らない日本人からみると、ドライバーも客も中国人同士であり、白タク営業とは気づかないだろう。これが摘発の難しい理由である。

では、彼らを「野放し」にしていいのだろうか。

この問題の解決を考えるとき、漠然とした中国への反発をベースに議論を煽るのは賢いやり方とはいえない。なぜなら、シェアリングエコノミーの社会における実践面において、日本は明らかに中国に遅れを取っているからだ。日本の社会は中国に比べて多くの面で優れているのは確かだが、この方面についてはうまくいっているとは言い難く、それを認める必要がある。


今春、中国シェアサイクル大手のMobikeやofoの日本参入が伝えられたように、中国はいまやシェアリングエコノミーの先進国だ。

それをふまえれば、遅れている側が法やルールを通じて現場を仕切り、自国の利益を守ろうとするのは普通のことといえる。だからといって、中国が平気でよくやるように、特定のプラットフォームを遮断することはできない以上、彼らを営業車として登録させ、管理する方向に呼び込むか、ツーリスト相手に限りグレーゾーンの存在としてこのまま泳がせるのか。違法営業であるという前提がある限り、今後、日本の社会が中国「白タク」の横行になんらかの制限を加えようとするのは当然だろう。

やみくもに摘発を強化するというようなやり方には実効性が乏しく、実りもない。日本人がまだ手に入れていない、海外旅行先で自国民のドライバーによる配車サービスを手軽に利用するという利便性を知ってしまった中国客に対して、どう制限を加えるかという問題は、それなりに理論武装したうえで合理的な説明が必要だろう。

彼らの違法営業をやめさせるためには、「白タク」の代替サービスを提供することも考えなければならない。個人化した中国客の移動のニーズを捕捉することは簡単ではないが、それゆえに「白タク」の横行を許してしまったといえるのだから。

そもそも日本社会としてライドシェアをどう実現していくかについての青写真を描いたうえでこれらを着手しなければ、みっともない話といえるのではないか。

そのためには、IT、金融、交通行政、法の専門家や警察、タクシー業界などのステークホルダーに加え、中国の事情に詳しい人間の知恵の結集が欠かせない。中国の先進性に学ぶ姿勢も必要だからだ。なぜ中国はこれほど進んだサービスを実現できたかについて公平な理解や今後の見通しが問われるだろう。

それぞれの専門家の立場からこの問題がどう見え、どうすれば解決につながるのか。日本社会の実情に無理なく合わせて、どこまで許容し、何を禁じるかを決める必要があるだろう。これを機に日本独自のライドシェアを育てるための新しいルールづくりを始めてもいいはずだ。

文=中村正人

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