「時計回り」に縛らず「時を楽しむ」ための時計

CHANEL / ムッシュー ドゥ シャネル

“時計回り”という言葉が日常化しているように、通常、時計の針は時計と正対して右側へ、いわゆる“時計回り”に一周する。多くのモデルは、センターに配された長針=分針と短針=時針が、それぞれ1時間、12時間をかけて一周することが、時計の動きの常識と認識している。小学生の頃に授業で習うのもこの動きである。

物事には必ず根拠があるように、時計がこのような動きになったのにも、もちろん理由がある。

暦が使われだしたのは古代エジプトといわれており、それは日時計だった。そして、ヨーロッパでは、ストーンサークルが多く使われるようになっていく。その代表的なものが、ストーンヘンジである。

このように、時計の起源が日の影の長さで時を知る日時計であったこと。さらに、時計が作られ発展したのがヨーロッパであったことが、時計回りの大きな要因となっているようである。北半球のヨーロッパでできる影は、西から東へ、つまり、左から右へと移動する。そうやって時を計っていたので、いまの時計回りは必然だったのだ。
 
そんな背景を持って時計は発展し、やがて時針、分針がセンターにおさまり回転するという形が作られていくのだが、その歴史の中では、ユニークな時計も産み出されている。人々は、“時を楽しむ”ために、さまざまな工夫を凝らしてきたのである。
 
そして、懐中時計の時代から現在へと受け継がれてきたユニークで高度な技術のひとつに、レトログラード、ジャンピングアワーがある。
 
まずはレトログラード。これは“逆行”を意味するフランス語からきており、その名の通り最終地点まで行くと針は瞬時に逆行して戻ってくる。針は扇状に動き、決して一周することはない。この機構は、分針に使われることが多く、その場合、60分が経過すると瞬時に0の位置に戻る。その動きがユニークで楽しいのだ。
 
そしてジャンピングアワーだが、一般的なものは、ダイヤル上に配された小窓に時間が表示され、それが1時間経つごとに、瞬時にジャンプするように切り替わる。それが名前の由来にもなってる。ちなみに、この時間表示の仕組みを応用したのが、デイト表示である。

もちろん例外もあるが、このレトログラードとジャンピングアワーは、セットで使われることが多い。これらを搭載したモデルでは、レトログラードの動きが派手なため、それをメインにデザインされることが多い。この場合も、最も目につくセンター針は分針となるので、いわゆる一般的な時計と同じように視認性に問題はない。

もちろん例外もあり、レトログラードを日付表示に使用する場合もある。その際も、この表示がメインになることが多い。それほどこの機構は、それ自体がモデルのデザインを決めてしまうほどの個性と影響力を持っているのだ。 

このようにユニーク時計を目の当たりにすると、時を楽しむ余裕のあった古き良き時代に思いを馳せるとともに、時計の面白さを改めて感じるのである。


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CHANEL / ムッシュー ドゥ シャネル

6時位置に配されたジャンピングアワー時刻表示と、その上部に置かれたスモールセコンドと240度のレトログラード分表示が絶妙なバランスで配置されている。[手巻き、18KWGケース、40mm径、412万5000円 問:シャネル(時計・宝飾)0120-159-559]

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BVLGARI / オクト バイレトロ

レトログラード機構を、分針とカレンダーで使用。複雑に折り重なる動きで時の流れを楽しむ。時は12時位置のジャンピングアワーで表示。[自動巻き、SSケース、38mm径、183万円、問:ブルガリ ジャパン 03-6362-0100]

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VACHERON CONSTANTIN / パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイト

時、分針は基本どおりセンターに配置。デイト表示がダイヤル上半分に扇状に置かれた日付を針で示すレトログラードが印象的である。[自動巻き、18KWGケース、42.5mm径、440万円 問:ヴァシュロン・コンスタンタン 0120-63-1755]

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文=福留亮司

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