「漢字の『一』の字をデザインしたロゴは、総合プロデューサーの原研哉氏によるものです」。
ロンドンの館長であるマイケル・フーリハンは、襟についたバッジを指した。黒い細長い六角形。少し謎めいたキリリとしたデザインには、ジャパン・ハウス創設の想いが垣間見える。日本の神髄を正しく発信することで国際交流を深め、願わくは世界全体をも豊かにしていこうという、壮大な夢が表現されているようだ。
ステレオタイプでない、知らなかった日本の魅力に目覚めてもらおうということで、イギリス人であるフーリハン自身も日本の発見を続けているという。
「西洋では文化というとアートや音楽、文学などになりますが、日本では日用品から食に関すること、茶や風呂など、生活の中に広く文化が息づいていることを知り、興味を深めています。伝統あるハイカルチャーから、マンガやアニメなどのサブカルチャー、さらにロボットなどのハイテクノロジーまで、すべてが日本の文化なのだと理解しています」
5月6日、サンパウロ市内パウリスタ大通りで「ジャパン・ハウス サンパウロ」の一般公開が始まった。(c)Rogerio Cassimiro
ジャパン・ハウス ロンドンは、文教施設が集中するケンジントン地区の元デパートだったアールデコ様式の建物内に入居となる。
「保存指定のある建物を片山正通氏のデザインで改装中です。1階では日本の伝統工芸や優れたデザインの製品を販売しますが、店というよりギャラリーのようなイメージです。日用品であっても、どこで誰が作ったのかというストーリーを大切にします。2階にはレストランがあり、和食や酒を楽しんでいただきます。地下には展覧会場と多目的スペースがあり、巡回展や企画展、トークショーやワークショップなどを計画しています」
そのほか、日英のビジネス交流や、観光情報の提供もあるとのこと。幅広く役立ち、興味を誘うものになりそうだ。ところで、ヨーロッパで唯一のジャパン・ハウスにも、EU離脱の影響は及ぶのだろうか?
「ロンドンは古くから文化面でも経済面でも交流の拠点で、それは変わらないと思います。国際的にも政情が不安定ですが、私は北アイルランド国立博物館に勤務した経験などから、国境こそが紛争を呼ぶものであることを学んできました。文化は国境を超える懸け橋となるものです。幅の広い日本の文化を正確に伝えることで、日本とイギリス、また、ほかの国との相互理解が深まり、それは次世代につなぐ懸け橋にもなると信じています」
開館に先駆け、大英博物館での北斎展に関連したイベントなども主催し、チンドンヤのパフォーマンスなどで話題を集めている。ジャパン・ハウスの活動は、日本国内にも波紋を呼ぶことになるだろう。
マイケル・フーリハン◎ジャパン・ハウス ロンドン館長。北アイルランドとウェールズの国立博物館、ニュージーランドの博物館でキュレーターやディレクターを歴任後、ニュージーランド文化遺産省でアドバイザーを務める。