前田:先日、少女漫画の編集者と話していたのですが、基本的に大宮のような郊外でもヒットしないと、マス化しない。では、マス化させるために、少女漫画はどうしたらいいと思いますか?
尾原:前田さんみたいなイケメンが主人公に告白して、両想いになった矢先、記憶喪失になる。
けんすう:映画を撮る。
落合陽一:YouTuberになる。もしくはSHOWROOMで流す。
前田:どれも正しいと思うのですが、その編集者曰く、ポイントは「ドSキャラ」を入れることだそうです。ちょっと暴力的なキャラクター、そういえば少女漫画に登場しませんか?
EXILEは全国で人気がありますが、彼らは港区女子ではなく郊外の女子にモテている。港区女子はきっと綺麗めな男子が好きですよね。でも、郊外におけるカッコよさは、強さや粗野さなんです。
尾原:例えば、中国の四川地方は素材の良い野菜がとれないから、四川料理は辛ければ辛いほど美味しいとされる。つまり、多様なバリエーションがないために、辛いという刺激が評価基準になりやすい。郊外における男性像においても、そういう面があるのだと。なるほど。
すると、これまで「ないものがない世代」と言ってきたけれど、もしかしたらそれは東京圏だけの文脈かもしれないですね。暴力的な形でしかメリハリを表現できず、ストーリーとしてのカタルシスや、共同体験からくるカタルシスがないのかもしれない。
前田:今、現実世界で承認欲求を十分に満たせていない、すなわち、社会資本を持っていない人たちが、それをネットなどバーチャル世界に求めにきているという話がありますよね。ゲームの流行の背景にもなっていると思うのですが。
尾原:社会資本をリアルに求めなくなってきていますよね。SNSで繋がっている友達から「いいね!」されるよりも、シェアされた先でどれくらい反応がみられるかを気にする。彼・彼女らの中ではそこが、最も重要度の高い“社会”になっている。僕は、ちゃんとそこが社会資本として機能するようになると可能性を感じています。
前田:仰る通りで、リアルな社会資本は細る一方で、WEB上の社会資本がより豊かになっていく気がしています。僕は、SHOWROOMがその受け皿の一つになれたらいいなと。いわば、ネット上のオンラインスナックですね。リアルのスナックは、実はそこまで気軽に行けない店が多い。重いドアを開けて、お客さんが一斉にバッとこちらを見てきたら……と不安です。一方、ネットにおいては、コミュニティへのエントリーハードルが低い。自分のバーチャルアイデンティティを携えて、とても身軽に他のユーザーとのつながりを築いていけます。
ネットがもたらす"コミュニケーションの身軽さ”というのは、これからの時代の一つのキーワードかもしれませんね。
尾原和啓◎執筆・IT批評家。京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、グーグル、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を歴任。現在13職目 、シンガポール・バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。近著『モチベーション革命』はアマゾン ビジネス書一位。
落合陽一◎筑波大学学長補佐/図書館情報メディア系助教・Pixie Dust Technologies CEOの他複数の客員教授・理事を兼任。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了者)、博士(学際情報学)。プリアルスエレクトロニカ、ワールドテクノロジーアワードなど受賞。ザンガレンシンポジウム明日のリーダー200人、ベスト知識人40人、世界経済フォーラムグローバルシェーパーズに選出など。
前田裕二◎SHOWROOM代表取締役。1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。DeNAに入社し、13年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。
けんすう◎nanapi代表。19歳で学生コミュニティ「ミルクカフェ」、22歳で掲示板「したらばJBBS」運営企業の社長になり、Livedoorに事業譲渡。その後リクルート社で3年ほど新規事業を担当し、2009年から現職。2014年にKDDIに売却。