IBMが遠隔勤務制度をやめた理由

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IBMは2009年、173か国38万6000人の社員のうち、40%が遠隔勤務をしていると公表していた。遠隔勤務制度の導入により、IBMは各地のオフィスビルを計20億ドル(約2250億円)近くで売却できた。賢いビジネス戦略としてもてはやされた在宅勤務は、瞬く間に本格的なトレンドとなった。

素晴らしい話のように聞こえるだろう。だが、ではIBMはなぜ今年3月になって、数千人の遠隔勤務者をオフィス勤務へと戻したのだろうか? 一部の識者が言うように、利益の低下を受けた苦し紛れの措置だったのだろうか?

いや、他に理由があるのかもしれない。ヤフーや、大手保険会社のエトナ(Aetna)、家電量販店のベスト・バイ(Best Buy)も在宅勤務をやめたことや、さらにはアップルやグーグルが在宅勤務の採用をそもそも見送っていることと同じ理由が、この背景にはあるのではないか。

例えば、協調性や連絡の重要性はますます大きくなっているが、上手く協調できるかは、個人メンバー間で良好な関係が築けているかにかかっている。遠隔勤務者は個人の仕事という点では非常に効率的だが、協力関係を築くという点で実際に顔を合わせることに勝るものは無い。

これはボディーランゲージの力だ。実際に対面することで、脳は一連の非言語的な表現を解析でき、それが信頼や仕事上の親密性の基礎を作る。

直接顔を合わせることでさまざまな情報が得られる。人と話す時、言葉そのものからは部分的なことしか分からない。私たちは、相手の口調や、表情、動きから、メッセージのほとんどを(そして言葉の裏にあるあらゆる感情的なニュアンスを)理解している。

また、相手が自分の考えをどう思ったかを読み取る時も、相手からの瞬間的な反応という、非言語のフィードバックに頼っている。非言語的なつながりの力は非常に強く、相手と真に親密な場合、無意識に体勢や動き、時には呼吸のリズムすら相手に合わせていることもある。興味深いことに、脳の「ミラーニューロン(ものまね神経細胞)」は、他者の行動だけでなく、感情もまねる。「感情の伝染」と呼ばれる反応だ。

私たちにはこうした生来の能力が有る。脳は実際に、より原始的で意義あるこうした情報チャンネルを必要とし、期待している。こうした対人的なつながりを否定されてしまうと、脳は苦しみ、コミュニケーションに問題が生じる。
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編集=遠藤宗生

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