総データ化時代、リーダーに求められるスキルは「想像力」

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急激な進歩を続ける人工知能(AI)は、いずれ人間から仕事を奪うのでしょうか。より適切な未来へ向け舵を取る責務を担うリーダーにとって、この疑問への解答は明確でなければなりません。つまり解答は、ポジティブな「イエス」であるべきです。

10年前、世界の時価総額ランキングは石油関連企業が上位を占めていました。しかし、ほんの10年ばかりの間に顔ぶれはアップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾンといったICT関連の企業へと大きく刷新されています。この一事を見るだけでも、私たち人類の「働き方」は現在進行形で変容し続けていることは明らかでしょう。

もっと深いところまで歴史を紐解いて考えてみましょう。現代は「第四次産業革命」の時代であると言われますが、従来の産業革命においても、生物の仕事が機械に奪われるという状況は、何度も発生してきました。代表的な例が馬車と自動車の関係です。

生物の仕事は機械に奪われ続けてきた

1769年、世界初の自動車がフランスで発明された当初、周囲の人たちの反応が冷ややかだったことは想像に難くありません。実際、時速3キロしか出ないこの自動車は試運転中に塀に衝突して、パリっ子たちの物笑いのタネになったそうです。WHOの調査(2013年)によると、自動車事故による死者の数は1年間で約125万人にもなることがわかっています。

しかし現代に、「自動車を捨て馬車の時代に帰ろう」という議論が行われることはありません。人類は馬の手入れから解放されることで、自由な時間と進化の速度を手にしたのです。

同様に、それまで農村部に集中していた人口が都市部に集約した結果、人間は実に多種多様の職種を手にしていることにも注目すべきです。日本人の肩書きが複雑すぎて外国人には理解不能(たとえば次長と課長はどっちが偉いの?)なことは笑い話ですが、テクノロジーや芸術文化、その他、様々な分野でこの100〜200年の間に多くの新しい仕事が生まれ、史上類のない速さでの発展が観測されたことはまぎれもない事実でしょう。

人類史は、政治ではなくテクノロジーの観点から言えば、新たな技術の台頭によって仕事を奪われた人間が、もっと新しい価値を生み出すために別の仕事を始めようとする日常的な営みの連続であると定義することができます。

それではなぜ、AIから仕事を奪われることだけ、ことさらに危惧する必要があるのでしょうか。私たちは、「もっと良いこと」に力を注ぐ自由を手にする、そう考えた方がずっと生産的です。

現代を生きるリーダーの役割は、AIや機械に代替されない仕事にチームのリソースを傾けさせることです。たとえば、単純な数字の管理や計算などは、すでにアウトソーシングやコンピューターによる自動化が進んでいます。10年20年先を見据えれば、電卓を叩く速さやエクセルの関数を使う達人は評価されにくくなるでしょう。
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文=齋藤 ウィリアム 浩幸

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