一方で日本では少子高齢化や人口減少にともない、交通機関の運行人員(ドライバー等)の確保が困難になっており、「おもてなし」をする上で、テクノロジーを用いた信頼できる交通システムをいかに訪日外国人に提供できるかが鍵となっている。
需要は増えるが、担い手は減る──つまり日本の交通事情には、需要と供給のアンマッチがあるわけだ。そんな交通の課題を人工知能(AI)で解決しようという動きが本格化している。
ルートと時間が最適化されたAI運行バス
代表的なのは、NTTドコモと未来シェアの試みだ。両社はドコモの「リアルタイム移動予測」(タクシーの利用需要をリアルタイムに予測システム)と、未来シェアの「Smart Access Vehicle」(SAV、オンデマンド型相乗り移動サービス)とを連携させて、必要に応じて最適な時間とルートを走行するモビリティサービスプラットフォームの実現を図っている。
2017年の9~10月にかけては、寄港地における消費拡大の可能性を調査するため、鳥取県境港市に寄港するクルーズ船の外国人観光客に対してSAVの提供を開始した。ドコモと未来シェアは将来的に、AIによるリアルタイム処理の活用によって需要に応じ、最適な時間に、最適なルートで、最適な運行を行う「AI運行バス」の提供を目指している。
いつでもどこでも乗り降りできるバスというだけに、実現すれば、タクシーや乗用車を利用する人は大幅に減るだろう。都市や観光地で発生する渋滞の解決にもつながりそうだ。
AIが車や歩行者の渋滞を解消
AIには渋滞の解消も期待されている。国土交通省は2017年夏、ICTやAIなどのテクノロジーを活用して、交通渋滞の解消を目指す実験・実装に取り組む「観光交通イノベーション地域」を公募した。これから研究・開発が進んでいく日本に先立って、海外ではすでにAIを使った渋滞に対するさまざまな取り組みが始まっている。
例えば、「AI信号機」だ。米カーネギーメロン大学でロボット工学を研究するスティーブン・スミス教授が自身のベンチャー企業で開発した、信号機管理システムを見てみよう。
ニュースサイトWireless Wire Newsの記事によると、スミス教授の信号機システムの特徴は、信号機に取り付けたセンサー類やカメラから集まるデータをAIベースのアルゴリズムで処理し、最適な信号切り替えのタイミングを決定できることだという。従来の信号システムは数年に一度の頻度しか切り替えないため、AI信号機が状況に応じてタイミングをその場で変えることができれば、より柔軟に交通渋滞に対応できると評価している。
ピッツバーグ市街で行った実験では、同システムを導入したことで自動車による移動時間が最大25%も短縮され、アイドリング時間も40%以上減少したという。スミス教授はアメリカにおける道路の交通渋滞が原因で生じる経済損失は年間1120億ドル(約12.4兆円)と講演で述べたことがあるが、その4分の1がAI信号機によって解消されるとなれば、効果はかなり大きい。