ウェブの世界だから出会えたふたりのオタク、下農淳司・羽田野太巳

羽田野太巳(はたのふとみ、左)、下農淳司(しものあつし、右)


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羽田野:ふたりとも理学系出身ですが、ウェブ系の中で理学系出身の人は珍しいですよね。とはいえ、会ったときにはお互いのバックグラウンドは全然わからなかった。あそこに集まる人たちは、相手の本業が何なのかということには興味がないんですよね(笑)。

そのときのコミュニティは、仕事と関係のない人たちと、純粋に率直に意見が言い合える面白い場でした。あの雰囲気は、エンジニアの業界特有なのでしょうか。

下農:ウェブ関係では結構あるのでは。インターネットエクスプローラー、モジラ、オペラといったブラウザがそれぞれいろんな機能実装や拡張をして競っていた、いわゆる「ブラウザ戦争」があったとき、いろいろな会社の人たちが、会社を超えて、アイデアを出して議論したのを思い出します。

羽田野:今はベースとなる技術が標準化技術であり、独占技術ではないというのも一因かもしれませんね。独占技術だと他社を排除するけれども、ウェブの世界では、みんなで技術を盛り上げようという雰囲気は作りやすいのかもしれない。

下農: 逆に独自技術とか言い始めると、サポートされないのかな? と不安になる。インターオペラビリティ(相互運用性)があるのがいいですね。

羽田野:僕らが書いたプログラムコードやHTMLというドキュメントがどのブラウザでも期待通りに動くのが理想ですからね。そういう意味においても、オープンに突き詰めて考える人たちが集まる、あのネットのコミュニティはオタクが活躍する最高の場所でしたね。

原動力は「探検」と「達成感」

羽田野:僕の原動力となっているものを一言でいうのであれば、「探検」でしょう。新たな課題を常に自分で探して、攻略して、達成することが好きなんです。ただ、自分の楽しみのためだけに「探検」している、というわけではありません。できたものが人に使ってもらえるのがやっぱり嬉しいんです。

自分の経験を振り返ってみると、皮算用してつくったものは、結果としてうまくいかないんです。一方で、自身が興味を持って何かを夢中でやった結果、人に喜んでもらえるということがとても多かったんです。ですから、自分で夢中でやったものの先に社会貢献というものがあると思っています。

下農:私の場合、モチベーションは「達成感」です。たとえばベンチャーキャピタルのプレゼンテーションなどでは、「人々の生活が便利になる」などと発表されるケースが多いですが、本当に万人に当てはまるのか、と疑問に思うことがあります。テクノロジーは必要なところに使えるだけですよね。

だから、私も「社会貢献」ということを目的化するのではなく、ものの製作で得られる達成感を積み重ねていきたいんです。新しいことを達成すると、新しいデータがとれる。新しいデータがとれて初めて、未知の領域が見える。それの繰り返しです。


下農淳司(しもの・あつし)◎東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員 。国立天文台がハワイ・マウナケア山頂で運用する大型光学赤外線望遠鏡「すばる」に、超広視野カメラや超広視野分光器を取り付け、その観測を通して、宇宙誕生と宇宙膨張の歴史を解明するSuMIReプロジェクトで、超広視野分光器の制御系ソフトウェアに携わっている。

羽田野太巳(はたの・ふとみ)◎有限会社futomi 代表取締役、株式会社ニューフォリア 取締役、最高技術責任者。1993年 日本電信電話(NTT)入社。1999年 NTTぷららに出向。2004年独立後、futomiを設立。W3CにてWeb-based Signage Business Groupの共同議長を務める。

構成=星野陽子 写真=藤井さおり

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