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2017.10.18

高額医療・無保険大国、アメリカでの患者支援の動き

(Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

医療イノベーション大国アメリカは一方で、高額医療・無保険の問題を抱える。患者を「エンパワメント」する動きは、加速している。


夫デイブが肺がんと診断され高額な治療費が必要になった時、1歳の娘を抱えて生活に行き詰まったエミリーが頼ったのは闘病資金の寄付を募るクラウド・ファンディング・サイトYou Caringだった。

目標額10万ドルを掲げ、エミリーはYou Caringのポータルに“Save Dave”と題するページをオープン。闘病の実情を訴える家族ビデオをアップした。結果、1357人から目標額を上回る金額が集まり、デイブは無事に闘病を継続できることになった。

がんの個別化治療、多臓器同時移植、HIV、掌サイズの未熟児の救命など、米国は高度先進医療で常に世界をリードする。高度先進医療は高い。そしてそのサバイバーは、予後、高額療養費を必要とする、しかも既往症のある(すなわち医療保険に加入しにくい)慢性療養患者となる。だから米国の医療費は高い。しかも日本のような高額医療費への公的補助制度がないから、重篤な病気と診断された患者はまず治療費を心配しなければならない。

You Caringは2011年4月の創業以来29万組の募金を支援。750万人から総額5.5億ドル(約600億円)の募金を集めた。草の根シェア・エコノミーともいうべき患者支援ポータルは15年に全米で総額150億ドルの募金を集めており、35年には3350億ドルを超える規模に成長すると予測されている。

医療に日本のような公定価格が存在しない米国では、医薬品の価格は薬局ごとに異なり、季節や市場の需要でも変動し、不透明でわかりにくい。

そんな患者の不満に対応し、処方薬のオンライン価格比較サービスをリアルタイムで提供しているのがGoodRxだ。無料アプリをダウンロードし、医薬品名を入力すると、携帯電話の位置情報から近隣の薬局の在庫と現在価格が表示される。無駄足も無駄金も使わずに済むと患者に好評だ。

米国の患者が正しく処方薬を服用しない最大の原因は経済的事情、つまり薬を買うお金がないことだと言われている。だが、正しい服薬こそは疾病管理の基本。深刻な経済的事情を抱える患者への医薬品購入支援事業を展開しているのがNeedyMedsだ。

ウェブサイトを通じ、医薬品をいかにより安く購入するか、行政への補助金申請から、製薬企業や保険会社や薬局のディスカウントまで、考えうる限りの方策と個別具体的なアドバイスを徹底教示する。全国の薬局で使えて最大80%まで値引きが期待できる独自のディスカウント・カードも発行。サイトには毎日16000〜17000人のユニークユーザーが訪れ、PV/日は平均70000である。
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文=西村由美子

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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