リーダーシップが極めて重要な分野、マスク以外の誰にも失敗が許されないだろう分野で、CEOのマスクはこのところ非常に成績が悪い。もし評価を行っていたら、彼は自らを解雇の対象と判断していただろうか?
マスクが抜け出せずにいる泥沼の一つは、最新型の「モデル3」の生産台数を引き上げられない状況だ。来年マスマーケットに投入するには必要だと自ら示した生産量に、遠く及ばない。
モデル3を注文して1000ドル(約11万円)の予約金を支払い、納車を待っているおよそ45万人、そして永遠にマスクを信じ続けるらしい投資家たちは、何が起きればマスクを夢想家と判断し、「たとえEVでも大衆車の生産などという平凡なことは彼には不可能なのでは」と心配し始めるのだろうか。
マスクの信奉者たちは、モデル3の大量生産が実現し、予約していた人たちが実際にモデル3に乗り始めれば、(アップルがスマートフォンを誰もが欲しがる魅力的なものに変えたような)「iPhoneの瞬間」が訪れると請け負っていた。だが、その人たちも恐らく、予約金は何か別のものに投資すべきだったかもしれないと、不安にならずにはいられない心境だろう。
投資家にも、不安になり始めている人たちがいるかもしれない。テスラには現金が不足している。時価総額は最高水準を維持しているが、同業他社との競争は今後、テスラにとってより大きな問題になる。そう考える人たちが、懸念を強めていく可能性がある。
遅れるほど不利に
モデル3の生産台数の目標達成が遅れるほど、メルセデス・ベンツやBMW、その他の高級車メーカーとの競争の脅威はより大きなものになる。GMのEV、シボレー「ボルト」はすでに、テスラではなくても航続距離の長いEVをマスマーケットに投入できる可能性が高いことを証明している。
マスクが自ら作り出したもう一つの苦境は、従業員らにスポット溶接の知識がないと見られることだ。スポット溶接は自動車メーカー各社が恐らく1世紀にわたって行ってきた伝統的なプロセスであり、すでにかなり以前から、組立ライン上ではロボットが行っていることだ。だが、マスクは自身が作る新たな時代の車にそうした古い退屈な専門技術を大幅に取り入れないことを、自らの誇りの問題としてきた。
そしてテスラの問題は、そのやり方でモデル3を生産しようとすることにあると考えられる。アルミを多用し、リベットと接着剤で完成させるこれまでの「モデルS」「モデルX」とは異なり、新型モデルはボディの大半に鋼板を使用しており、スポット溶接が必要だ。
マスクの支持者らは、「CEOはこの問題をかなり前から認識していた、そのため一年以上も前にアウディの元幹部、ペーター・ホーホルディンガーを自動車生産担当の副社長として引き抜いたのだ」と主張するだろう。
マスクは今月初めにツイッターで、モデル3の生産がまさに「生産地獄」に陥っていることを認めた。だが、テスラを「地獄」に落とした自らのリーダーシップとマネージメントに関する過ちについて、マスクはそのつけを払うつもりがあるだろうか。