だが、ドナルド・トランプ大統領の就任以来、連発される外国人の入国を制限する大統領令のおかげで、米国への旅行に不安を持つ人が各国で増加している。
世界的には今年1月以降、外国に旅行する人は増加している。一方、米国を訪れた外国人旅行者は減少している。米国の旅行業界の専門家らはこうした状況のなか、多くが「トランプ・スランプ(トランプの影響による落ち込み)は現実のものになった」との見方を示している。
旅行業界を専門とする調査会社フォーワードキーズ(ForwardKeys)によると、1月27日に大統領令が署名された後、米国内の空港に到着した外国人の数は同日から3月15日までの間に前年比1.3%減少。さらに、米連邦最高裁判所が6月26日、3月に署名された2度目の大統領令の一部執行を認めたことを受け、同日から9月30日までに入国した外国人は、同2.4%減少した。
また、1月の大統領令への署名後に欧州で行われた調査では、米国への観光旅行に関心があるという人の割合は前年の同じ時期と比べて12%減少。3月に大統領令が発令された際には、英国のシンクタンク、オックスフォード・エコノミクスが、「この影響で、米国を訪れる旅行者は8%減る可能性がある」との見方を示していた。
経済に深刻な影響も
外国人旅行者の減少は、たとえ割合を示す数字が小さくても、金額で見れば相当の大きさになる。米商務省の投資誘致プログラム、セレクトUSA(SelectUSA)によれば、米国の旅行・観光業界は2016年、同国に約1兆5000億ドル(約167兆円)の経済効果をもたらし、およそ760万人の雇用を創出した。
フォーワードキーズの共同創業者はこうした米国の状況について、「トランプ・スランプは実際に起きており、ドル高がその影響をさらに拡大している」と指摘する。
米国の旅行・観光業は、国内で7番目に多くの労働者を雇用している産業だ。その上、2012年の時点では国内の旅行会社の84%が小規模企業に分類されている。業界に関与する米国人にとって、先行きの見通しは明るくない。
米商務省が9月に公表したデータによると、今年第1四半期に米国を訪れた外国人は、前年同期比4.2%減の約1580万人だった。そして、旅行者の減少は米国内で消費される金額の減少を意味する。例えばニューヨークでは、外国人の旅行者が滞在中に支出する金額は、米国人旅行者のおよそ4倍だ。
さらに、米国に旅行する外国人は平均で18泊し、この間に約4360ドルを使っている。全米旅行産業協会によれば、米国に滞在する外国人が支出する金額は、国内の120万人の雇用と支払われる賃金およそ324億ドルを直接的に支援している。外国人旅行者はわずかでも減少すれば、米国経済にとっては多大な損失となる。