実益をもたらす国際派CEOのファッションセンス

グーグル共同創業者のラリー・ペイジ(Photo by Kimberly White/Getty Images for Fortune)


美容に話を戻そう。昭和の社長はファッションセンスがよくなく、スーツ姿が似合わないと海外でも揶揄された時代があった。しかし、その時代のど真ん中に日本から世界に出て戦おうとした企業には、面白い美意識があった。

ソニーとホンダがその典型である。スーツが常識の時代に社長から社員まで作業着を着たのだ。ソニーは美意識がさらに高く、作業着を三宅一生さんにデザインしてもらい、袖が取れてベストにもなる実用性も兼ねた作業着にしていた。ウォール・ストリートで高価なスーツを着ているのがビジネスの象徴とされた時代に、作業着こそメーカーの美意識かつプライドであると、全面に出していたのだ。ものづくりの誇りがそこに昇華されていた。

NYの洒落たストリートファッションのルーツにはワークスタイルがある。やんちゃなスケーターのスタイルは、ブルックリンで市民権を得る随分前に、日本のソニーやホンダの社長が先駆けていた。ストリートの若者の必須アイテムとなったソニーのウォークマンが発端となって、スケーターたちのスタイルにつながったのかもしれない。

作業着の美意識には、それくらいのパンチがあった。もちろん、ビジネスの場でもコミュニケーションツールとして役立っていた。スティーブ・ジョブズやラリー・ペイジ、日本ならチームラボ猪子社長の毎日同じ服装の社長スタイルは、実は、日本のものづくり産業が原点だったかもしれない……と想像すると面白い。

洒落た国際派のトップたち

国際派のCEOは、美意識を徹底しており、多少やんちゃでもある。ビシっとしたスーツの裏地は紫のストライプなんてイギリスの外交官もいたし、綺麗な白髪をしているなと思ったアメリカのCEOは、地毛の黄色っぽい白毛をカラーしてきれいな白銀にするこだわりをもっていた。ドイツのお堅いCEOは、好きなビールの銘柄の特製カフスボタンを着用していた。地元愛も感じるし、それ一つで話題をつくり、場をもっていく。お洒落にさらりと地元の宣伝をするのが秘訣であり、美意識の高さが人格をも盛り立てる。

日本では小泉進次郎がお洒落で話も上手いと人気も高いが、親に橋本龍太郎元総理をもつ橋本岳も地元岡山のジーンズのスーツを着こなす洒落者だと思う。デザイナーがつくる本格的なスーツなのがポイントで、嫌味なく地元の宣伝となり、スーツの完成度とそれを選択した彼の美意識が国際レベルでのコミュニケーションに役立っているだろう。

ではその美意識はどうやって作るのか。これはやはり、子供の頃からどれだけ数多くの「美」に触れたかによる。これしかないのである。たくさん美術展に行き、たくさん演劇を見て、たくさん美しい景色を眺めて感動する。美しいものを瞬時見極める感受性を養い、どう自分の中で具現化するかその技法を学んでくる必要がある。

日本人の社長で趣味人は、企業規模は小さくても魅力があり、交友が広く、市場の危機対応能力も高い。ゴルフクラブを集めるとか、高い陶器を集めるというより、いい絵を発掘してくる、詩吟をする、盆栽をする、旅行をして美術や美しい絶景をみるのが、国際派のCEOの絶対条件になる。ブリヂストン美術館や出光美術館みると、創業者がいかにグローバルで、いかに教養人であり、国際社会でも臆することなく商売をしていたかを感じとれる。

今回のCEOアワードの集まりでは、ゲストの女性比率は少なかった。そして、ステージに惜しくも登場しなかった社長さんら重役の方々はある意味、普通の美意識だった。

秋は、芸術の季節である。ますますグローバル化するこれからの時代のCEOは、日本の代表でもある。美容業に携わる者としては、会社から一歩出て、美術鑑賞や音楽鑑賞、そして舞台も、伝統芸能へ行く人が増えたらいいなと思う。

文=朝吹 大

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