チップを支払うことはばかげており、レストラン業界に悪影響を与えるだけでなく、違法である可能性さえもはらんでいる。
多くのレストラン経営者はチップがある方が賃金を低く抑えられると考えているだろう。だが、どのレストランでもチップを受け付けているため、結局は競争の原理により価格の引き下げ圧力が発生し、売上の減少につながる。自由市場の原理によってコストと対価のバランスが取れると考える人もいるかもしれないが、フロア係はチップをもらえるのにキッチン係はもらえないため、レストランを運営するうえでの経済学に狂いが生じてしまう。
フロア係も一生懸命働いていることに違いはないが、調理場のスタッフの方がより専門知識を必要とする。平均的な知的水準の人であれば、比較的短期間でフロアをこなせるようになるが、シェフになるには訓練と経験が必要だ。それにもかかわらずチップが存在することによりフロア係の取り分の方が高くなる事態がしばしば起きる。しかも、その差が原因で調理スタッフを確保できないという話まで耳に入ってくる。
通常であれば経済の法則がこの問題を解決するはずだ。つまり、レストランがキッチン係を確保するためにキッチン係の賃金を高くするはずなのだ。しかし、レストランビジネスは利益率が低く、賃金を上げるためには価格に転嫁する必要が出てくる。
さらに、値上げした場合、チップのせいで顧客の支払う費用は経営側が意図した額の15~20%も高くなる。しかも、顧客が多く払った分はフロア係に行ってしまうのだ。ある意味で、チップ文化が自由市場の原理をゆがめているとも言える。
また、チップに潜んでいる違法性は、これが極めて差別的な仕組みであることだ。同じサービスでも男性よりも女性が、年配者よりも若者が、さらに白人のほうが多くチップをもらえる傾向があることが分かっている。他の職業であれば、同じ仕事内容なのに黒人男性よりも若い白人女性に多くの賃金を払ったら訴えられるだろう。だがそれがまかり通っているのがレストラン業界なのだ。
しかし、チップの廃止は現実的には難しい。現状ではフロア係はチップで生計を立てているため、単純に廃止するわけにもいかない。一部のレストランでは撤廃の動きもあるが、根づいてしまった習慣を取り除くのは容易ではない。チップを違法とするのが最も現実的かもしれないが、実現できるほどの政治的動きはまだない状況だ。