大統領の仕事を楽しんでいるかとの質問に、トランプは即座に「楽しんでいる」と答えた。「楽しんでいるよ。多くの成果をあげている。株式市場は史上最高値に達し、失業率はほぼ17年ぶりの低水準だ。素晴らしい数字が出ている」
楽しさを計る際に「素晴らしい数字」を使う人は少ない。だがトランプにとって、数字は物事に効力を与えるものだ。数字を見れば、その取引の勝者・敗者が分かるし、業界内のヒエラルキーも確認できる。トランプが、同誌の米長者番付「フォーブス400」入りした約1600人の富豪の誰よりも、同誌からの評価を高めようとロビー活動や説得に積極的だったのも、これが理由だ。
大統領執務室でのインタビューで、平均株価が就任以来20%上昇したと伝えると、トランプは計算対象の期間を引き延ばし、さらに見栄えのする数字を示した。「いや、選挙日から25%の伸びだ。選挙日から見なきゃいかん」
もちろん、株価上昇率はどの指数をみるかによって異なるが(トランプが使っているのは、自分に最も都合のいいナスダックだ)、大統領にはそんな細かい論理は通用しない。「選挙日から25%だ。選挙日から5兆2000億ドル上昇した。5兆2000億ドルだ。ヒラリー・クリントンが勝っていたら、株価は暴落していただろう」
大きな数字は、その正確さにかかわらず、常にトランプを魅了してきた。彼はトランプタワーを実際より高く見せかけるため、階数の数字を変えた。自身が司会を務めたリアリティー番組『アプレンティス』の視聴率に固執し、自身のマンションの面積を水増しした。就任式の観衆の数を誇張したり、自分に都合の悪い世論調査結果を伝えた人に八つ当たりしたりといった不可解な言動も、これですべて説明できる。
トランプは数字を、交渉手段としても利用している。彼はかつて、自分の交渉術をこう説明したと伝えられている。「私が誰かのために何かを建てるときはいつも、5000万~6000万ドルを価格に上乗せする。部下がやってきて、費用は7500万ドルだと言えば、私は『本当は1億2500万ドルのところを、1億ドルで建てましょう』と言う。汚いやり方だが、相手からは素晴らしい仕事をしたと思われる」
トランプによれば、現在行っている法人税減税の提案にもこの手法を使ったのだという。トランプは数か月にわたり法人税を15%に引き下げる意向を示してきたが、現在の提案ではこれが20%へと変わった。「15%と言っていたのは、実際には20%を実現するためだった」と大統領は主張する。