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2017.10.17 10:15

新しい社会の変え方、「こども宅食」の挑戦

photographs by Toru Hiraiwa

7人に1人の子どもが、相対的貧困状態に陥っている日本。深刻化するこの問題に、前例のない革新的アプローチで挑む者たちがいた。その挑戦を、東京都文京区に追う。


蒸し暑い7月の昼下がり、新橋駅からほど近い南桜公園。遅めの昼食をとるサラリーマン、一息入れる作業着姿の東南アジア系労働者── 。その日も、いつもとさほど変わらぬ光景が広がる公園。そこに、3台のタクシーが横付けされ、ジャケット姿の男女6人が降りてきた。彼らは、汽車の遊具の前に並び、私たちの撮影の要請に、気軽に応じてくれた。
 
写真に写る6人は右から、投資家村上世彰の娘、村上財団代表理事・村上絢。病児保育、待機児童問題をはじめ、子育て支援の分野で数々の実績を誇るフローレンス代表理事・駒崎弘樹。“育休首長”の先駆け的存在、文京区長・成澤廣修。東日本大震災復興に尽力し、「Mr.復興」と呼ばれた男、RCF代表理事・藤沢烈。支援歴10年、子どもの学習支援のエキスパート、キッズドア理事長・渡辺由美子。社会を変える資金調達のスペシャリスト、日本ファンドレイジング協会事務局長・鴨崎貴泰。 

異なる専門分野を持つ6人の間には、どんな関係があるのか。撮影の30分前、6人がいたのは厚生労働省の記者会見室。共同で、“あるプロジェクト”の発表会見に臨んでいた。

「子どもの貧困の解決を目指し、異なるセクターの専門家が手を取り合う、全く新しい形の支援はじめます。その仕組みの名は、『こども宅食』です」

会見冒頭、駒崎の口から出た、聞き慣れない言葉。「こども宅食」とは、つまるところ、「宅配版のこども食堂」だ。文京区内のひとり親家庭など生活の厳しい約1000世帯を対象に、米、飲料、お菓子など約10kgの食品を1カ月に1度無料で届ける計画だ。

このプロジェクトが「凡庸な慈善事業」でないことは、記者会見場を見渡せば、明らかだった。何かが始まるー そんな予兆を嗅ぎつけたマスコミが、廊下にまで溢れ出ていた。なぜそこまで注目を集めるのか。プログラムの全容を紐解いてみよう。

「食事代たった100円」という現実

「食べ物にこんなに困っているとは、驚きでした」

10年以上、低所得家庭の子どもに学習支援を続けてきたキッズドアの渡辺。彼女が「食」の切実さに気づいたのは、塾代を払えない家庭の中学3年生を支援し始めて、すぐのことだった。

「学習会に持参できる食事代は、たった100円。その子は、駄菓子しか食べられません。まさか教室で、『お米、ありますか』と聞かれるなんて」

街中で、ストリートチルドレンを見かけないからといって、子どもの貧困問題が日本に存在しないわけではない。現在、日本の子どもたちの内、およそ「7人に1人」、ひとり親家庭では「2人に1人」が相対的貧困に陥っている。最低限の衣食住を保つことはできているものの、社会の中で「普通」とされる生活ができないのだ。

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食費や教育費に十分にお金をかけられないが、周囲の目を気にする親は、子どもたちに小奇麗な服を着せ、スマートフォンを渡す。一見した限り、貧困が見えないのが実状だ。

こども宅食では、児童扶養手当、就学援助受給 世帯のデータベースを持つ文京区と連携。適切な支援を積極的に届ける「アウトリーチ型」の支援を行う。小規模な宅食の実施経験を持つ渡辺には、宅食の価値を確信したエピソードがあった。

「親から宅配があると聞いていた末っ子が、宅配当日に判子を持ち、玄関に正座で待っていたんです」

通販を利用する家計の余裕もない。人や社会との関係も疎遠になりがち。生活困窮家庭にとって、実は「物が家に届くこと」自体が、待ち遠しくなるほどの特別なイベント。そこに、普段は食べられない米やお菓子が入っていれば、なおさらだ。
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文=山本隆太郎 写真=平岩 享、岡田晃奈

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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