ビジネス

2017.10.17

新しい社会の変え方、「こども宅食」の挑戦

photographs by Toru Hiraiwa


コレクティブ・インパクトには5つの原則があるが、特に重要なのは「評価システムの共有」。日本ファンドレイジング協会の鴨崎は、「評価とは、実はコミュニケーションツール。文化が異なる団体間の共通言語になる」と言う。

こども宅食で評価するのは、支援した家庭や食品の数ではない。子どもの健康状態の向上率、親の育児不安の解消率。さらには、学力の向上率と、その結果の進学率。「こどもの貧困」という解決したい問題に最終的に結びつく項目だけを、予め整理し、評価。「どの支援が、何をどれだけ解決しているか」を細かくデータにして「見える化」するからこそ、連携する多様な団体が、状況を理解できる。

後は、ビジネスでPDCAサイクルをまわすように、取得したデータを基に、社会的事業を改善する「インパクトサイクル」をまわし、戦略的に成果を追求する。そこには、今までにない「新しい社会事業のあり方」が、垣間見られる。

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まさに「ソーシャル・イノベーション」と呼ぶにふさわしい、こども宅食。その誕生の背景には、どんな戦略があったのか。仕掛人・フローレンスの駒崎から返ってきたのは「意外な答え」だった。

「貧困家庭に直接支援を届けるという構想だけで、立派な戦略なんて、ありませんでした」
 
むしろ、と駒崎はこう続けた。「ひとつの団体で頑張るより、みんなで強みを持ち寄る方が、社会課題解決の近道。NPOを10年以上続けてきて得たその実感が、事業の原点です」

待機児童問題から赤ちゃん養子縁組まで、常に問題解決の最前線で挑戦してきた駒崎が辿り着いたのは、そんな素朴な「真理」であった。

こども宅食は、日本でのコレクティブ・インパクトの成功事例となるか。記者会見を終えた今、役者は揃い、舞台は整った。6人が微笑んでいたあの公園での、あの昼下がり、幕は上がったのだ。


鴨崎貴泰◎日本ファンドレイジング協会事務局長、社会的インパクトセンター長。千葉大学園芸学部緑地環境学科卒業、グロービス経営大学院修了。公益財団法人信頼資本財団事務局長を経て、SIBの日本導入やSROIによる社会的インパクト評価などに従事。

渡辺由美子◎特定非営利活動法人キッズドア理事長。千葉大学卒業。百貨店、フリーランスのマーケティングプランナー等を経て、現職。内閣府「子供の貧困対策に関する有識者会議」構成員、厚生労働省「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」委員を務める。

駒崎弘樹◎特定非営利活動法人フローレンス代表理事。慶應義塾大学総合政策学部卒業。日本初の「共済型・訪問型」病児保育サービスを開始。待機児童問題など様々な社会的課題に取り組む事業を展開。厚労省イクメンプロジェクト推進委員会座長等を務める。

藤沢 烈◎一般社団法人RCF代表理事、新公益連盟事務局長。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。情報分析や事業創造に取り組み、復興庁政策調査官、文部科学省教育復興支援員を歴任。総務省「地域力創造アドバイザー」を兼務。

成澤廣修◎文京区長。駒澤大学法学部卒業、明治大学公共政策大学院修了。1991年、当時全国最年少の25歳で文京区議会議員に初当選。区議を4期務めた後、2007年4月に区長に初当選。現在、特別区長会幹事、東京都子供・子育て会議委員等を務める。

村上 絢◎村上財団代表理事。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。モルガン・スタンレー証券会社債券部に勤務後、投資家として株式投資を通じて上場企業におけるコーポレートガバナンスを訴える活動を開始。NPO法人チャリティ・プラットフォームの代表に就任。

文=山本隆太郎 写真=平岩 享、岡田晃奈

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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