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こども宅食では、この「幸せな体験」に、「情報」と「関係性」を巧みに掛け合わせる。届ける箱には、無料の学習支援や相談会の案内を同封。「こども宅食」の利用申込時に利用するLINEアカウントも、その後の相談窓口として活用する。LINEを介して、個々の家庭の状況を把握し、必要に応じて専門機関につなげる。つまり、「食品を届けること」は入り口に過ぎない。その関係性からさらなる支援を届けられるように、事業全体がデザインされているのだ。

こども宅食では、行政とNPOの連携に、民間企業の「強み」が加わる。家庭への配送・受け渡しは、買い物代行を通した高齢者の見守りサービスを行うセイノーホールディングス傘下・ココネットが担当。

「高い不在率は、収益率を下げて事業の継続を阻むので、不在でも物を置ける仕組みを整えるべきだ」。そんな提案がココネットからすぐに出るのも、本業で培われた専門的な知見があるからこそだ。

「結局、餅は餅屋なんですよね」

そう話すのは、企業連携担当のRCF藤沢烈。行政とNPOで実現できないなら、企業に協力を求めるのが、問題解決の最短ルートというわけだ。

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では、民間企業側が協力する理由とは何なのか。藤沢は、企業に求められる社会性が、かつてと大きく変わったという時代背景から、まず分析する。

「今は、社員にも、社会にも『ホワイト企業』でなければいけない時代。そうしなければ、働き続けてもらうことも、買い続けてもらうこともできません」

そして、事業経営の一環として、内発的に社会と向き合う企業もいる。藤沢が言うところの「社会起点マーケティング」を実践する企業は、マーケットがまだなく、社会的課題だけがある領域に目を向け、その課題の本質を掴むことを目指す。後に、新しいマーケットが生まれれば、いち早く乗り込み、マーケットのルールメーカーとなることを狙うのだ。

「世界ならばグーグル、日本ならリクルートやヤフー。マーケットをつくる意識の強い会社が、頻繁に口にするキーワードこそ、『社会』なのです」

社会起点マーケティングの視点を明確に持つココネットは、こども宅食を通した「地域での新しい物流モデル構築」を視野に入れている。

連携するための「知恵」

こども宅食の運営資金は、全国から集まる文京区へのふるさと納税による寄付で賄う。そして、プロジェクトの始動資金は、村上財団が支援。文京区民の一部を支援するが、文京区の一般会計や税は一切使用しない。そのメリットは、連携するNPO・企業と行政の間で、対等な関係性を構築できることにある。

行政の寄付金を利用する場合、資金の使用用途など、事前の仕様書に縛られる。一方、こども宅食では、行政とは対等な関係。民間からの提案によって、常に事業を改善する「柔軟な支援」ができるのだ。

カギは評価システムの共有

行政、NPO、企業など、異なるセクターの団体が独自の強みを持ち寄り、ひとつの問題の解決を目指すアプローチを「コレクティブ・インパクト」と呼ぶ。これは今、注目を集める社会を変える新しい手法で、日本には象徴的な成功事例がない中、こども宅食はこのモデルでの事業設計に挑戦した。

文=山本隆太郎 写真=平岩 享、岡田晃奈

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