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それだけでなく、全国の子供向けにオペラやバレエに関連する各種コンテストを開催し、優勝者を劇場に招待している。ビアードCEOは次世代への投資についてこう説明する。

「若いうちに興味の種をまいておけば、仕事や家庭で忙しい20〜30代は劇場から足が遠のいても、40〜50代になって種が育ち、戻ってきてくれるかもしれません」

ROHが常に未来を見据えて投資してきたのには訳がある。「オペラの本場」といえばやはりイタリアやドイツで、ROHは“後発組”とも言える。フランセス・ドナルドソン著『20世紀のロイヤル・オペラ・ハウス』(未邦訳)によると、ようやく一流の歌劇場として認識されるようになったのは、ゲオルグ・ショルティが音楽監督を務めた1960年代で、「この頃になって、外国から超一流の歌手や指揮者がロンドンに来たがるようになった」という。

その後も決して順風満帆だったわけではない。特に1990年代半ばにはチケットの売れ行きが伸び悩んだ。ビアードCEOはこう話す。

「まず何より、当時は劇場の老朽化が著しかった。舞台裏の設備もひどいものでしたが、劇場内にエアコンがなかったので夏は不快で、座席によって入り口が別々だったり、バーが快適でなかったり。ちゃんとお金をかけていないのが見え見えでした。それに、演奏の水準にもムラがありました」

そんな状況から、1億7800万ポンドをかけた劇場の改装に踏み切った。何よりも“顧客体験”に投資することで、軌道に乗ることができた。

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オーケストラ・ピットは、最大90人の走者を収容できる。

人材への投資も重要だ。2002年には、ベルギーの王立モネ劇場の音楽監督だったアントニオ・パッパーノを音楽監督として招聘した。年間73万ポンド超とも報じられる彼の報酬が批判の的になることもある。だが、カウフマンがオテロ役に初挑戦する場としてROHを選んだ理由はパッパーノへの信頼にほかならないと公言しているように、ROHにもたらす価値は計り知れない。

ROHは現在、中劇場「リンベリー・スタジオ」の改装を含め、大規模な工事を実施している。完了は2018年9月の予定である。絶えず観光客などで賑わうコベント・ガーデンと劇場をカフェやレストランでつなぎ、チケットを買わずともオペラハウスの“魔法”をちょっぴり体験できるようにするという。

劇場からロンドンの街へ、ロンドンから全国へ、全国から世界へ─。隔てる壁を打ち壊し、限りなく外へと展開していくのが、現代の劇場の姿だ。

文 = フォーブスジャパン編集部 写真 = リチャード・ボル

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