──日本の企業には、社会問題の解決と収益を同時に目指すCSV(共通価値の創造)文化が根づいていない。なぜCSVが重要なのか。
企業が社会問題に対処する方法には2つある。まず、寄付などにより、責任ある企業市民としての役割を果たすCSR(企業の社会的責任)だ。
2つ目が、社会問題に意義ある方法で取り組み、社会に恩恵をもたらし、自社の経済活動も高めるCSVだ。企業の成功は、社会的条件や健全な労働力・消費者、持続可能な天然資源、法環境など、多くの問題に依拠しているため、社会問題の解決をビジネスモデルの一環として行い、収益増や競争的差別化を目指す手法だ。
例えば、南アフリカの医療保険会社は、加入者にインセンティブを与え、健康的な行動を奨励したことで、加入者の寿命が13年延び、生命・医療保険部門の収益が増えた。社会問題が自社の成功にどのように影響しているか、自社のリソースを使って何ができるかを考えれば、会社や社会に価値を生み出せる。
米決済大手ペイパルは過去数年間で、金融機関から融資を受けられない企業に30億ドルのローンを実施し、大きな収益を上げた。零細企業に機会を提供しつつ、ほかの金融機関が逃した新ニッチを見つけ、自社に成長をもたらした。
──2011年にあなたが共同論文で提唱された「コレクティブ・インパクト」は、CSVを実現する効果的な手法と注目されている。なぜか。
教育制度の破綻や貧困など、社会問題は複雑で、たったひとつの解決策や組織で対応できない。政府や慈善団体、企業が協力し、異なる役割を果たすことが必要だ。しかし多くの慈善団体は個別に独自の手法で活動しており、組織・セクター間の交流は皆無だ。
そこで、私たちが提唱したのが、非営利団体(NPO)や財団、政府、企業などが特定の地域の特定の問題にフォーカスしてコラボレーションするという、セクター横断的なモデルだ。異なるセクターの組織が協力し合い、共通のアジェンダや、成果を測る共通のシステムを発展させ、活動を支援し合えるよう「支柱」となる人員を置く。1人の場合も、複数の組織にまたがる数人の場合もある。
コラボレーションの足並みをそろえ、成果測定に必要なデータの収集を促進しつつ、協働する組織がデータの意味を把握できるようにするのが任務だ。
コレクティブ・インパクトなら、慈善団体や企業、政府が単独では達成できないようなかたちで、地域の社会問題に改善をもたらせる。例えば貧困問題では、最低賃金の引き上げだけでは不十分で、雇用創出やスキル支援などが必要だ。コレクティブ・インパクトの革新性は「協働」と、共通の測定基準構築にある。
コレクティブ・インパクトの提唱は、私が共同創業者兼マネージングディレクターを務める米NPO・FSGがコンサルティングを行っていたオハイオ州の教育系財団「StriveTogether」がきっかけだった。同財団がコレクティブ・インパクトのような試みで大成功を収めていることを知ったのだが、まだ体系化されておらず、特定の名称もなかったため、全米で成功している同様の事例を調べ、季刊誌『スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー』(11年冬号)で発表した。