機能性は勿論、斬新なデザインが特徴で、世界で初めてステンレス製の高級機械式時計を開発したことでも知られている世界三大時計ブランドの一つ、オーデマ ピゲ。
1875年にスイスの高級時計の聖地とも呼ばれるル・ブラッシュで、時計職人の家に生まれた二人の職人、ジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲによって創業された。以降、一貫して創業家による経営を貫いている。そのオーデマ ピゲを率い、現在副会長を務めるオリヴィエ・オーデマ氏が、UBS銀行ウェルス・マネジメント本部が主催する「ファミリービジネスセミナー」で講演するため来日した。
4世代140年以上にわたり、創業家一族が経営に携わる非上場ファミリービジネスを維持できた理由やその意味を聞いた。
──スイス・ジュネーヴ郊外にあるジュウ渓谷で1875年創業と非常に長い歴史を誇るブランドです。
人里離れ、かつ鉄鉱石以外にこれといった資源がない環境のうえに、長い冬は雪に閉ざされたジュウ渓谷では、もともと金属加工の家内手工業が盛んでした。それが今日の複雑な時計メカニズムづくりにつながっています。この伝統的な複雑時計のメカニズムを、今後より革新的なイノベーションと融合させてさらに時計づくりを発展させていきたいと思っています。
──伝統を重んじていかなければならない一方、変革も必要では?
高級時計というとプラチナや金、またサイズも小さいものが多かったなか、私たちはあえてネジを見せるデザインやシャープなアングルなど、その時代に存在しなかったものをつくり出してきました。独自の道を切り拓くという精神こそ、私たちが重んじている伝統です。
一方、時計にはふたつの側面があり、1つは時間計測の道具。2つめは美しさや複雑さの極致を体現する道具です。1つめは安価なものやクオーツのような効率のいいものの出現により淘汰されつつありますが、後者こそ変革が必要な部分です。職人はアーティスト、アルティザンなどと呼ばれますが、まさにアーティスティックな側面を追求していかなければならないと思っています。ここに変革の余地があると考えています。
──ファミリービジネスという形態が長寿企業に貢献している面はあるか?
ファミリービジネスであるベネフィットが3つあります。1つめは長期的な視点で考えられる。決して四半期ごとの株主に対する報告ではなく、世代単位の考え方でビジネスを進めていける点です。
2つめは恐慌などの危機を経験していることです。例えば1928年、大恐慌の少し前にホールセールの50%以上を担当していたアメリカの代理店が破綻しました。その後数年は時計の受注が1本しか入らず、時計師はわずか3名しか抱えられないという状況も起こりました。私はこの話を祖父から聞き、同じ過ちを回避してきました。つまり、先代の記憶を生かして生き延びることができるのです。
そして、3つめは、大事な決断を行うとき、50年前に自分の祖父ならどう考えたか、または50年後、自分の孫が同じ判断をするのであればどう考えるのか、というように過去と未来をつなぐ役割を自身が担っていると考えるようにしていることです。これによりぶれないブランドビジネスをすることができるのです。