「リモワの強みは“ 遺産”でしょう。ドイツのケルンにて1898年に創業され、優れたクラフツマンシップを守ってきました。しかも、生産から販売まで一貫してリモワ社が担当しているのも特長になります。2017年にLVMHグループの傘下に収まりましたが、LVMHグループは分権的な組織で独自性を尊重しています。ですからグループのラゲージ製造を目的とし、ノウハウを得るための買収ではないことを明確にしておきます。しかしグループのノウハウを生かすことで、小売り部門が強化されることは間違いないでしょう」
その一端が分かるのが、今年の7月にオープンした「リモワストア銀座6丁目」。スイスのデザインユニット「アトリエ・オイ」がデザインしたパリ店の要素をいくつも取り入れた、新生リモワを象徴する店舗になる。
「リモワにとって日本は重要な市場です。1980年にドイツ国外でリモワが初めて販売されたのが日本であり、そこから企業が大きく成長したという事実があるからです。私自身も日本には12回も訪れていますが、人々も文化も洗練されており、流行をつくり出す力があると実感しています」
さまざまな経験を積んだアレクサンドル氏だが、経営者としてのキャリアはこれから。そこでリモワを45年も率いてきたディーター・モルシェックとの“共同CEO”という方法をとった。意見交換を重ね、モルシェック氏のビジョンや知識を得ることで、彼は自分なりの戦略を固めていく。
「僕を含めたミレニアル世代の消費モデルは、所有から体験へとシフトしています。今までのリモワは、旅行の移動中しか消費者と触れ合わなかった。しかし今後はもっとブランドと接点が生まれる環境をつりたい。これからは“スーツケース”ではなく“トラベル”が重要なキーワードになるでしょう。そこには自分の旅の体験も生かしたいですね。最近はマチュピチュに行きましたが、遺跡への鉄道も含め、すべてが印象的でした」
青年らしい笑顔を浮かべ、未来を語るアレクサンドル氏。彼の冒険は始まったばかりだ。
アレクサンドル・アルノー◎1992年フランス、パリに生まれる。エコール・ポリテクニークでコンピューターサイエンスを学び、マッキンゼーや資産運用会社でキャリアを重ねる。2017年1月より現職。