ビジネス

2017.10.10 07:30

欧米に負けているが「日本の医療ビジネスは宝の山」


「インキュベーターの歴史は、アメリカでは古い。ただアメリカと日本では少しやることが異なっています。アメリカのインキュベーターというのは、場所の提供や、アドバイザーや投資家の紹介など、ややハコモノ的です。日本は起業する数も少なく、ハコだけつくれば店子があふれるというシリコンバレーとは違います。よりプロアクティブなインキュベーションをしなければと思っています。

例えば、臨床ニーズから製品のデザインを考えるところ、POC(プルーフ・オブ・コンセプト)の取得、知的財産の確保、薬事承認の取得、そして海外市場の販売パートナーの確保など、実際に事業化そのものを実施する必要があります。そして、現在の仕事を通じて、大学の研究室にくすぶっているものを発掘してくる。この仕事は、“なんだ、こんなのあったのか”と、嬉しくなります。

ぼくらは日本のソーシングをもっとシステマティックにやりたいと思っています。今、広島県さんや神戸市さんなど地方自治体と提携して、その地区で眠っていそうな中小企業や大学のアイデアやシーズの棚卸し作業をやっています。

協働の例としては、医療機器を開発しようとしている中小企業さんのリストを自治体と一緒に検討して、これは芽がありそうだとか、これはもうやめたほうがいいとか、こういうメーカーと組んだらいいものができるとか、あるいはぼくらが特許を取り直してやったらモノになるということをやっています。こういう作業を日本中でやっていけば、絶対すごいのが出てきます。

もうひとつのソーシングですが、いちばん医療ニーズを知っているのは医療従事者である医師の方々です。そこで日本医師会さんと提携させていただいて、開業医の先生たちから『こんなのがあったらいいのに』というアイデアを医師会のホームページから登録していただき、われわれが目利きして、場合によっては先生に『これはいいアイデアですから特許取られたらいかがですか』というアドバイスをしています。

特許を取った後は、ぼくらと一緒にやるという選択肢もあるし、先生ご自身がどこかに特許を売ったり、共同開発をしたり、それは先生の自由です。開業医の先生もイノベーティブな方がいっぱいいらっしゃるのです」

ちなみに前出の「痛み治療器」は国際共同治験が控えているという。これに通れば、海外への販売の道も開ける。医療機器の貿易赤字を黒字にしたいという思いは、決して夢物語ではないのだ。


内田毅彦◎日本医療機器開発機構 CEO。ハーバード公衆衛生大学院・同経営大学院卒業。内科・循環器科専門医。医薬品医療機器総合機構などに勤務後、日本人として初めて米FDAの医療機器審査官を務めた。

文=稲垣伸寿

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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