「ぼくらはイノベーションのオリジネイターというより黒子です。研究者やスタートアップの人たちが本当は素晴らしいダイヤの原石を持っているのに、やり方がわからないからどんどん“死の谷” に落ちていく。“死の谷”を渡るとは、すなわち事業化力です。例えば、薬事の戦略が立てられないとか、臨床試験の方法がわからないとか、資金調達の方法がわからないとか、特許戦略がうまくいっていないとか。ぼくらがアドバイスをするだけでなく、代わって事業化したりすることもあります。
事業化にしても、ぼくらが仕上げられる医療機器の数はたかが知れています。しかし、その過程で成功体験を共有した人たちがさらにそれを広げていけば、裾野は広がります。最終的には約8000億円になっている現在の医療機器の貿易赤字が減少し、必ずプラスに転じると考えています」
地方に眠るネタと、開業医の頭にあるアイデアを掘り起こせ
日米双方で働いてきた経験から違いも明確に見えてくる。
「日本はまだ足りていないものばかりですが、いちばん足りていないのは事業化する人、できる人です。“死の谷”を渡るところの事業化ができない。その経験者が極端に少ないのです。アメリカでは成功した人が、次にアドバイザー、投資家、シリアル・アントレプレナー(連続起業家)になったりする。いいタネが出てきたときに、誰のところを訪ねたらアドバイスが受けられるかがわかります。そして、その人が勝ち組に回ると、今度は支援に回ったり、もう1回起業したりと良い循環が回り始めます。これがエコシステムです」
「一方、日本の特徴は、ちょっとした改良という視点が多いことです。象徴的なものとして、睡眠時無呼吸症候群の治療法があります。夜寝るときにマスクのようなものをつけて、ベッドサイドに機械を置いておいて、陽圧で空気を送って呼吸が止まらないようにするという治療法“CPAP”がありますが、当初の製品は大きいし、音はうるさいし、あまり快適には見えないような製品でした。
ここで、日本人の発想は、『音を静かにしよう』『シリコンで柔らかくして装着感をよくしよう』『小型化しよう』というのがほとんどです。それはそれで素晴らしいことです。ところが、アメリカのベンチャーたちは、『だったら、4本くらい針を入れて、伸縮性があるチューブを舌に埋め込もう』となる。これはいま実際に、あるベンチャーが開発していますが、発想が全然違う。
人がやっていないことをやろうという着眼点は、日本が弱いところかもしれません。アメリカでは、より革新性が高いもの、人と違うことを狙うのがスタートアップだというマインドセットがあると思います」
内田から見ると、日米の相異点は支援する側にもある。