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2017.10.08

125年の歴史を持つブランド、ダンヒルが進める静かな改革

約300年前に建てられ、公爵ほか幾多の住人が暮らしたボードンハウス。その歴史とアットホームな佇まいは、ダンヒルの「ホーム」として申し分ない。


マアグのヴィジョンを具体化するため、新しくクリエイティブディレクターに起用されたのがマーク・ウェストンだ。バーバリーでともに仕事をしてきた長年のコラボレーターでもある。

「マークには、バーバリー時代から絶大な信頼を寄せてきました。直感的審美眼をもち、イギリスならではの歴史や伝統技術、またいまのメンズブランドに求められているものを知り尽くしています。素晴らしいリーダーでもあり、服や小物のデザインから、ショップや広告の監修まで、ダヒルの新時代を切り拓くために、彼以上の適任者はいないでしょう」

この6月にウェストンによる2018年春夏のコレクションが発表になったところだが、来春を待たず、9月には新しいアウターコートが店頭に並ぶという。

「世界初のカーコートを発売したアルフレッドへのオマージュでもあります。創業当時の自動車は屋根のないオープン式。ドライバーを風雨から守るコートやフラップ付きキャップ、ゴーグルなどが必要で、彼は当時これを製造販売して大成功したのです」

アルフレッド自身、自社のコートやキャップで身を固めて車を飛ばしたことだろう。実際、スピード違反で罰金を科せられたことがあった。その後、警官を見張るための双眼鏡とゴーグルを一体化させた「ボビー・ファインダー」をつくり、特許申請もしている。

「アルフレッドのこのチャレンジ精神を引き継ぎ、現代的なブリティッシュ・スタイルを打ち出していきます」

その試みを「静かな革命」と呼ぶマアグだが、具体的にはいかなるスタイルとなるのか?

ウェストンの言葉を借りれば、「フォルム、プロポーション、縫製、細部へのこだわり、高品質な素材と、色や柄などによる表現」となる。例えば新コレクションのボンバー・ジャケットは、表地が日本製ナイロンを使ったミリタリー調で、裏地は伝統的なボーティング・ブレザーに見られる英国産ウールのストライプ生地を使ったリバーシブル仕立て。伝統とモダンがさりげなく融合した、存在感のある一着となっている。

最高の素材と技術を用いながら、デザインにおいては遊び心を感じさせるところが、マアグの言う新しいダンヒルの方向性を示している。

ミレニアル世代が、今後のターゲット

現在、日本におけるカスタマーの平均年齢は44歳。次なるミレニアル世代への訴求も、マアグの目指すところだ。「より若い層をターゲットに、全製品の見直しを行っています。スーツとのコーディネイトも念頭に置いた、現代的なカジュアルシューズにも力を入れていきます」

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ボードンハウスの一階にあるショップ。美しいショーケースの中にレザー製品などが並ぶ。

マスコットとして知られるブルドッグのイラストをプリントしたレザー製品など、モダニティとユーモアのバランスのとれた融合を感じさせるシリーズも揃える。

一方、ダンヒルの神髄を成すのは、引き続きビスポークとクラフツマンシップであることも強調する。

「ボードンハウス内にはスーツやシャツのビスポーク工房もあり、採寸やフィッティングだけでなく、カッティングからパターン製作まであらゆる工程を手がけています。また、レザー工房もロンドン郊外にあり、なかには半世紀にわたってここで働く職人もいます。スーツから小物まで、すべての製品でカスタムオーダーに対応できる伝統を、ダンヒルは今後も守り続けます」
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text by Megumi Yamashita, Ryo Inao、edit by Shigekazu Ohno

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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