業界のキーマン3人が語る「VRショッピング」の可能性

9月8日に虎ノ門ヒルズで開催された「EC Camp 2017秋」

何か欲しいものがあれば、オンラインストアにアクセスして購入する。スマートフォンの普及とともに、右肩上がりで成長を続けるEC市場。野村総合研究所の予測によれば、国内におけるB2CのEC市場は2022年度までに26兆円規模に成長する見込みだという。

そんな成長著しいEC市場において、近年注目を集めているのが「VR(仮想現実)」だ。ECサイトの利便性は実店舗に行かずとも、欲しいアイテムを購入できる点にあるが、その一方で課題も残る。サイズ感や色味など、商品のディテールを確かめることができない。

ECサイト特有の課題を解決し、新たなショッピング体験を創出する技術としてVRが注目され、特にファッション領域を中心に実験的な活用が進んでいる。しかし、多くの人にとってVRはまだまだ馴染みがないだろう。

VRの魅力とは何なのか、具体的に何ができるのか。本稿では2017年9月8日に東京、9月22日に大阪で開催された「EC Camp2017秋」のスペシャルトークセッション「次世代Eコマース『VRショッピング』の最新トレンドと利用実態」の内容を紹介する。

登壇したのはPsychic VR Lab Creative Director, Senior Engineerの八幡純和、InstaVR代表取締役社長の芳賀洋行、パルコ 執行役グループICT戦略室担当の林直孝。モデレーターはForbes JAPAN 副編集長の九法崇雄が務めた。

VRはログデータの収集に効果的

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Psychic VR Lab Creative Director, Senior Engineer 八幡純和

「VR元年」と呼ばれた、2016年。Oculus Rift(オキュラスリフト)やPlayStation VRなどのヘッドマウントディスプレイが登場したことで、盛り上がりを見せるVR業界。

IDC Japanが発表した市場予測によれば、全世界における2017年の市場規模は114億ドル(約1兆2000億円)になると予想されている。2021年には2150億ドル(約23兆8000億円)ほどになる見込みだという。

クリエイターのためのVR制作・配信プラットフォーム「STYLY」の開発を手がける、Psychic VR Labの八幡は、「もともと日本ではゲームやCG(コンピュータグラフィックス)への興味・関心が高いこともありますが、スマホアプリの開発に飽きた人がVRアプリの開発に取り組み始め、クリエイターの数がすごく増えてきています」と語る。

VRの可能性にいち早く気づき、ECへの活用を始めたのがパルコだ。きっかけは2016年3月12日に渋谷PARCOで開催された、世界的デザイン集団「TOMATO」の結成25周年記念エキシビジョンに遡る。

同社はプログラムのひとつである、Underworldの招待制シークレットライブをVRでも体験できるようにしたのだ。当時のことを林はこう振り返る。

「その体験が個人的にはインパクトがすごくて。シンプルに『VRって、すごいな』と思ったんです。また、この技術には大きな可能性がある、と思えました」

その後、パルコは Psychic VR Labと共同で、“20年後の未来の東京のファッション”をテーマにしたVRコンテンツを作成。2017年3月12日〜15日にかけて、米テキサス州オースティンで開催された、「サウス・バイ・サウスウエスト・トレードショー」に出展。また、VOYAGE GROUPと共同でVRショッピング「VR PARCO」を期間限定で試験的にオープン。次々とVRを活用した取り組みを行ってきた。

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パルコ 執行役グループICT戦略室担当の林直孝

「リアル店舗には空間や営業時間など、さまざまな制約がある。その一方でVRは空間や時間などの制約をすべて取っ払える。今までにない顧客体験を提供できるわけです。またリアル店舗で顧客のログデータを収集することは難しいですが、VRであれば、どの商品に興味があってカートに入れられたのか。ログデータを収集することができ、そのデータを商品の配置などに活用することもできるんです」

実際、VR PARCOの取り組みは来店者の平均10%がカートに商品を追加するなど、想像以上の効果があったという。ただし、林はVRの課題も口にした。

「ECにおけるコンバージョン(CV)は“カートに追加”ではなく、“購入”です。この数値はまだまだで、”カゴ落ち”する率が非常に高かった。VRで購入まで導くには、課題もあります」

空間性、実在感、没入感がVRの魅力

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InstaVR代表取締役社長芳賀洋行

少しずつ活用されるケースが増えてきたVRだが、具体的にどこが魅力的なポイントなのだろうか——VRアプリ作成ツール「InstaVR」を提供する、InstaVRの芳賀の見解はこうだ。

「VRは空間性、実在感、没入感にある。空間に囚われることなく、目に見える以外の情報も付け加えることができるのが魅力だと思っています」

同社は不動産、旅行業界を中心に全世界1万社以上にVR作成アプリを提供。その実績をもとに、ショッピング以外でのVR活用の可能性についても触れた。

「多くの人は動画だと5割くらいしか内容を覚えていないのですが、体験すると9割ちかくの内容を覚えている。VRは店舗での接客のロールプレイングにも使えるのではないか、と思っています」

あらゆる可能性を秘めたVR。多くの人は「導入のハードルが高い」と感じてしまいがちだが、登壇者3名は口を揃えて、「ハードルは高くない」と語る。

例えば、InstaVRは360度カメラを購入し、撮影した写真を取り込むだけで簡単にVRコンテンツが作成できてしまう。また、VR制作・配信プラットフォーム「STYLY」はドラッグ&ドロップだけでVRコンテンツが作成可能となっている。

Psychic VR Labの八幡はこう語る。

「近い将来、VRが当たり前にある世界になっていく。そこに向けて、もっと簡単にVRコンテンツが作成できるように、より一層、作成のハードルを低くしていくつもりです」

また、林は“今”がVRに取り組むべきタイミングだ、と言う。

「VRは今後、間違いなく普及する。今のうちからVRをどうビジネスに組み込むべきかを考えておいた方がいい。パルコとしては、今後商品を購入した後のイメージを想起させるような仕掛けを作りたいな、と思っています」

最後に、InstaVRの芳賀が「VRは誰でも簡単に始められるものなので、気軽に取り組んでみてください」と語り、セッションは幕を閉じた。

文=新國翔大 写真=大崎えりや

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