カンヌライオンズ期間中のカンヌは、今年もクリエイターらしき人々がパスを下げながら煌びやかな街の中心を闊歩し、独特の高揚した空気感が漂っていたが、ここシンガポールも負けてはいない。アジア地域最大級の広告コミュニケーションフェスティバルとあって、アジアパィフィック地域を中心に23カ国から4301点の応募作品が集結。世界中から若手クリエイターやVIPが詰めかけ、会場は連日熱気にあふれた。
特にここ数年は、オーストラリアやニュージーランド、日本、中国などのベテラン勢だけでなく、カザフスタンやパキスタン、バングラデシュなど新興国の参加も増えてきているのが特徴だ。会場では、様々な人種のクリエイターたちが積極的に情報交換をする姿が見られた。新興国のインフラがさらに整備されるにつれ、広告分野も急速に成長することが予測されている。
そんな中、今回日本勢は、応募数4301点のうち1008点というトップで圧倒的な存在感を示していた。既に世界の広告業界では、ベテランの貫禄も漂う日本勢はここアジアの地でどのような意地を見せたのだろうか。
新興国からの参加も近年は目立つ。クリエイターたちは国境を超えての情報交換に忙しい。
カンヌでも注目 ”シード・クリエイティビティとは”
今回、イノベーション部門でグランプリ獲得を果たしたのは、トヨタ自動車のi-ROAD Open Road Project「Smile Lock Outlet」(電通)だ。
トヨタの電気自動車「i-ROAD」を通して、都市のモビリティーを模索するこのプロジェクト。キーワードは、“シード・クリエイティビティ(Seed Creativity)”だ。このプロジェクトでは、広告会社がクライアントビジネスの初期段階から関与し、クライアントと共に事業を育ててビジネスを創出してゆくという。今年の「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」でも大きな注目を浴びた。
“シード・クリエイティビティ”の発想が生み出された背景は、プロジェクトを牽引する電通4CRP局の志村和広氏のバックグラウンドにあると言ってもよい。志村氏は、東京大学でバイオテクノロジーを専攻、大学院ではイネの病害抵抗性遺伝子についての研究に打ち込んだ、異色のクリエイターだ。
志村氏の発想はユニークだ。
「“シード・クリエイティビティ”という定義は、育て方の段階で与える影響のみならず、種子の段階でDNAレベルに変更を加えることにより、その後の生態、つまりビジネスの結果に大きく影響するという意味合いを持っています。イノベーションの種を創造する段階から関わることで、クライアントと共に1からではなく0からビジネスを創造していくことが出来るのです」