ビジネス

2017.10.05

イスラエル首相が豪語「サイバー防衛は永遠のビジネスだ」

「Cyber Week 2017」に登壇するネタニヤフ イスラエル首相


エコシステムに必要なのは、ヒト・モノ・カネだ。「ヒト」は、タルピオットなどの卒業生。「モノ」は、軍からの技術転用。「カネ」は、「Yozma Program」を利用。こうしてサイバーセキュリティー産業は単独の分野としてではなく、国家のリソースを解放したことで有機的に動き出したのだ。

最後に紹介したいのが、サイバー界のドン、ベン・イスラエル教授である。現在、テルアビブ大学教授のベンは、イスラエル国防軍の少将を経て、軍全体の研究開発のトップを歴任。ネタニヤフ首相からの直々の依頼で首相府に入り、国家サイバー戦略策定のプログラムヘッドを務めた。


テルアビブ大学のベン・イスラエル教授

彼は首相からこう依頼されたという。「5年先を展望した、国家サイバー戦略を策定してほしい」。ベンは首相に何と答えたか。彼の話を聞こう。

「私はきっぱりと、『5年先を予想するなど人間の一生を予測するに等しく、不可能です』と言ったよ。そもそもサイバー技術は1〜2年で世代が変わるほど発展する。とはいえ、何もしないわけにはいかない。だから私は外的な環境の変化に即応できる組織とエコシステムをつくろうと考えたんだ」

ベンは意外なことを語り始めた。

「2010年前後の頃、イスラエル国内にサイバーセキュリティーを専門に扱う学術組織はなかった。軍部には高いレベルのサイバーセキュリティーのノウハウはあるにもかかわらず、政府・軍・民間・アカデミアが有機的に協働する環境は整っていなかった。だからこそ、それぞれが一体となることでより強力なエコシステムができる、いや、つくるべきだと進言した。それが私の国家戦略の骨子だ」

ロシアや中国がサイバー大国として注目されているが、ベンは歯牙にも掛けない。彼はこう自負した。

「情報が文書という紙からデータに置き換わったとき、我々の諜報活動の範囲はデータの世界に広がった。インターネットが普及する前から、クローズドのネットワークシステムに入ることを試みてきている。我々の最大の武器は、経験の蓄積なのだ」

砂漠への開拓、脅威、戦争、先手必勝の技術開発と技術の解放……。この歴史の蓄積がイスラエルを新産業の盟主にしている。サイバー防衛、コネクティッドカー、デジタルヘルスケアなどがそうだ。

イノベーションは当初の目的とは違った、別の進化を生み出すといわれる。しかし、イスラエルは「予期せぬ進化」を最初から想定していたのではないか。イスラエルの旅の最後に、そんなことに気づかされるのだった。


小田駿一◎2000年代後半に、独立系ファッションZINEを創刊し、発行人兼編集長を務める。その後、12年に渡英し、フリーランスフォトグラファーとして活動。17年に東京に拠点を移し、現在はフォトグラファーとして主にファッションやスタートアップ分野で活動しながらポートレイト写真と連動した取材・執筆活動も行う。

文・写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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