ビジネス

2017.10.05

イスラエル首相が豪語「サイバー防衛は永遠のビジネスだ」

「Cyber Week 2017」に登壇するネタニヤフ イスラエル首相


教育については、国防軍のスーパーエリート養成プログラム「タルピオット」も紹介しておきたい。

「名前を明かすことはできない」。そう断ったうえで、国防軍のある幹部が語り始めた。「私たちの人材育成は、ブティック型のスタイルをとっている。優秀な人材には個別にテーラーメイドのプログラムを提供する」。エリートの選別は、18歳で軍役につく2年前から始まる。学業成績、生活態度、周囲の評判、複数回の面接など、多面的に候補者を吟味。

ごく少数が選ばれ、そのうち理系に特化したエリート養成プログラムが「タルピオット」と呼ばれる。先の国防軍幹部は、「原則的に、決められたプログラム内容というものはない」と言う。選抜された人材は最初から軍に所属するのではなく、大学や企業など志向や適性に合わせて進み、「候補者に合わせてプログラムをデザインする。その代わりに、通常3年間の軍役を延長する契約にサインしてもらう。育成したのに軍で働かないということになったら、意味がないからね」。

育成の費用は全て軍の負担だ。さらに、「専門技能や知識を身につけた後、いよいよ軍において実際の軍事作戦に従事してもらうことになる。軍ではかなり若くから、マネジャーとしての責任と権限を付与して業務を遂行してもらうため、自律した個としての精神性が早くから養われる」。軍を通した育成が、人材の競争力を高める一因だろう。

実は日本の若者と似ていた

「中東のシリコンバレー」と呼ばれるイスラエルだが、実は約20年前まで若者は大企業で働くことを志向し、スタートアップの文化はなかったという。

「1990年代半ばまで、イスラエルの状況は今の日本と同じような状況だったよ」と語るのは、京都大学大学院で法学を学び、日本の法律事務所で勤務した経歴をもつデイビッド・ヘラーだ。彼は、イスラエルのベンチャーキャピタル、Vertex Ventures Israelのパートナーを務める。


デイビッド・ヘラー/Vertex Ventures Israel パートナー

「スタートアップを支援するためのリスクマネーが、20年前は圧倒的に不足していた。それを変えたのが、有名な『Yozma Program』。このプログラムは、民間企業から一定額の投資原資を集めることができたベンチャーキャピタルに対して、国家が投資原資を追加で負担するという制度だ」

このプログラムによって、Vertexを含む10社のベンチャーキャピタルが立ち上がり、市場にリスクマネーを供給した。このリスクマネーで多くのスタートアップが立ち上がり、成功が次の挑戦とさらなる成功を呼んできた。その証左に、卑近なイスラエル企業の買収事例でも、インテルによるMobileyeの買収や、グーグルによるWazeの買収などビッグディールが数多くある。しかしながら、日本にも当時のイスラエルの水準でリスクマネーは存在する。違いは何かとデイビッドに尋ねると興味深い話をした。

「まず、第一には軍事技術の転用だね。イスラエルでは、基本的に軍で研究している際に従事したノウハウ、知識、技術などに関して民間で転用することは制限されていない。契約書すら存在しない。アメリカだって、ここまで大胆ではないはずだ」

Mobileyeは単一のカメラで、対象を三次元的に補足できる。この技術ももとは軍のセンサー系技術の蓄積である。イスラエルは航空戦力を重視してきたため、戦闘機の計器類の技術がセンサーテクノロジーを進化させてきた。コネクティッドカーやデジタルヘルスなど軍事技術の進化形だ。こうしてイスラエルは技術的優位を築いている。デイビッドが続ける。

「二点目は我々が元来もつ『アントレプレナーシップ=開拓者魂』だね。そもそも我々の祖先は、砂漠だけの何もないこの土地に『ユダヤ人の国家』をつくるために入植してきた開拓者だ。そして、同時に生き残るために何かしなければいけないという危機感ももっている。我々は、生まれた瞬間からそんな親や文化に囲まれて育つから、自然と生き残るための術を模索する。生まれながらの開拓者なのさ」
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文・写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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