テクノロジー

2017.10.07 11:00

宇宙ほど「PRしがいのある」舞台はない


たぶん秋元を惹きつけたのは、「ストーリー(物語)」だ。単なる「点」に過ぎない商品やブランドではなく、「線」であり、果ては「面」にもなりうる「物語のあるコンテンツ」。これに彼の心は動かされ、プロジェクトに参加する。秋元自身は、この「物語のあるコンテンツ」を、「プロセスメディア」という言葉で説き明かす。

「HAKUTOにボランティアとして関わり始めたときから、情報をどうやって伝えていって、どうやって人を巻き込んでいくかをすごく考えていたのですが、その過程で”プロセスメディア”という考えに至りました。Google Lunar XPRIZEという大きなミッションがまず立ち上げられ、最後に月面探査のミッションがあるとすると、月面探査の前には打ち上げがあって、その前にはいろいろなテストがあって、またその前にはプロトタイプの製造とかいろいろなプロセスが走る。このプロセスに合わせて、例えばイベントとか試験の公開とかをやっていき、いろいろな人たちを巻き込んでいく。関わってくれる人たちの渦がどんどん大きくなれば、この渦はやがて社会を変えていくようなことまでできるんじゃないかと思ったのです」

「Google Lunar XPRIZEのプロセスすべてを媒体だと捉えて、自分たちが発表や試験などイベントのたびに情報を発信していく。単発ではなく、プロセスの流れのなかで連続してPRをしていく。Google Lunar XPRIZEには、出発点とゴールがあり、ストーリーもしっかりしているからイメージしやすい。その全体を称して”プロセスメディア”と呼んでいます」

外資系飲料メーカーの戦略が勉強に

この「プロセスメディア」という発想のもとに情報発信していくという戦略は、秋元がPRエージェンシーで働いているときにすでに芽生えていた。ある外資系飲料メーカーの日本進出の立ち上げに関わり、彼らのPR展開から大きなヒントを得たという。

「彼らのすごいところは、コンテンツ自体を自分たちでつくるんですよ。イベントとかやっても、協賛はしない。全部自分たちで主催してイベントをやる。例えばスポーツのチームにしても、ただお金を出すのではなくて、所有してしまうんです。自分たちのお金でつくるということは、つまり本気でコンテンツをつくって、それをマーケティングにも使っていく。すると、自分たちがつくったコンテンツが広まり大きくなっていくにつれて、自分たちの商品も広く一般化していく。それを世界中でやっているんです、この企業は。これはいちばん勉強になりましたね。HAKUTOの情報発信でも、かなり影響されています」

自分たちの手によるコンテンツづくりというのは、いわば秋元の言う「プロセスメディア」を自前でつくり、それを展開していくということでもある。HAKUTOのプロジェクトも究極の手づくりだ。しかも舞台は宇宙。コンテンツとしてこれほど大きなものはない。

「ドワンゴをつくった川上量生さんが、著書のなかで書かれたてたのですが、いいコンテンツとは情報量が多いことだ、と定義づけているんですね。それを読んだときに、ああ、Google Lunar XPRIZE でやっていること、ispace社がめざそうとしていることは、だから面白いんだなと思ったのです。宇宙ほど情報量が大きなコンテンツは他にない。サイエンスもありますし、エンジニアリングもあれば、そこに携わる人たちの数の多さとか、素材とかでもトリビア的なものがいっぱいある。そういう情報が宇宙というものには、いっぱい詰まっていて、だからこそ多くの人が宇宙に惹きつけられるのだと思います」

宇宙という膨大な情報をバックに、その中心でHAKUTOの情報発信を続ける秋元だが、いままさに中学生のときに抱いた志を実現したとも言える。今後、秋元の「プロセスメディア」という発想とともに、もっと多くの人たちが「物語」を共有していきそうだ。

*Forbes JAPANは、月面探査用ロボットの打ち上げまで、HAKUTOプロジェクトの動きを追いかけていく。
au HAKUTO MOON CHALLENGE 公式サイト>>

文=稲垣伸寿 写真=小田駿一

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