プロジェクトの最初から、情報発信の中心を担ってきたのがHAKUTOの秋元衆平だ。
「宇宙産業の人たちって情報発信が下手くそだなと常々思っていたんです。まったく人に伝わらないやり方をしているなって。難しい専門用語で話している専門家や研究者の人たちの目線を、ぼくのような一般の人たちと同じ高さにしたいという気持ちがありました。宇宙に関する情報をもっとわかりやすいものにしたい。そうすれば、参加したいという人や一緒にやりたいっていう人たちは増えてくる」
HAKUTOのGoogle Lunar XPRIZEへの挑戦は、いまや地上波のテレビでも扱われるものとなり、一般的な関心もかなり高まってきている。秋元の考えていた「宇宙の情報をもっとわかりやすく」は、かなり成果を上げているともいえる。
「鳥取砂丘でのSORATOの通信試験は、遠隔地にもかかわらず、メディアパートナーであるTBSさんやNHKさんだけでなく、50名くらいのメディアの方々に取材していただきました。きちんと取材機会をつくって世の中に情報発信をしていく、こういうことができているのが、いまのHAKUTOの強みであり、他の宇宙プロジェクトとの違いを生み出していると思います」
情報を発信する側のHAKUTOとそれを取材する側のメディアの間に立ちながらも、秋元が常に意識しているのはメディアの向こうにいる一般の人たちだ。そこまで視野に入れ、「情報の翻訳」をしているという。
「ぼくは、HAKUTOと、その外側にいる人たちのつなぎ目に自分がいるというイメージでずっとやってきています。HAKUTOから出ていく情報はすべてコントロールしてますし、外側から来た情報も一度集約してチームの中で共有しています。エンジニアの言葉も理解しつつ、それをビジネスの言葉に置き換えることができているという意味でも、情報の翻訳というのが自分は得意なのかもしれないです」
宇宙に関する情報を一般の人たちにもわかりやすくという秋元だが、もともと彼自身は宇宙にはあまり関心がなかったという。
「まったく興味なかったですね。だいたい宇宙はそんなに好きじゃない。そちらの道に行きたいと思ったことはまったくなかったのです。宇宙飛行士になるとか、それを自分の職業にするとかは一切考えていなかった」
いま宇宙に関わる仕事のど真ん中にいる秋元の発言としては意外なものだが、彼はもともと宇宙そのものよりも情報の発信に興味をもっていたという。
「ぼくは秋田県出身なのですが、この県がめちゃめちゃ好きなんです。自然が豊かで、ごはんも美味しい、人もすごくいい、こんなに良いことが揃っているのに、何故こんなに人気がないのかと、中学生の頃から思っていたのです。秋田県は47都道府県の中でもメディアに取り上げられる機会も極端に少ない。それってなんでなんだろうと考えて、その時に出した結論が、秋田の人たちは情報発信が下手くそなんだと、そもそも発信してないんじゃないかということだったんです」