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フォーブスジャパン コントリビューティング エディター/ライター


──基礎研究について日本の体制は十分か。

十分とは言えません。日本は、解剖学、病理学、疾病学、微生物学、薬理学など医学の発展に重要な基礎医学研究が行いやすい環境が整っているとは言い難く、優秀な研究者が海外に拠点を移さざるを得ないという現状があります。

日本は米国に比べて医学の研究予算が圧倒的に少なく、医学研究者が大学院や研究機関の給料だけで生活できる状況にはありません。しかも臨床研修制度が変わり、研究課程に進んだ者が臨床のアルバイトをすること自体が難しくなっています。日本で基礎医学の分野を志す人が少なくなっていることは憂慮するべきことであり、アルバイトをしなくても基礎研究にしっかりと取り組むことのできる体制を整えていかなければならないと考えています。

欧米には(ロックフェラー大学やビル&メリンダ・ゲイツ財団など)、大富豪が慈善事業財団をつくり、医療に関する研究所を設立したり、プログラムに資金を提供するなどの寄付文化が根付いており、寄付に対して税金が控除されるなど、制度にも支えられています。日本にも富裕層は増えています。国は研究機関への寄付に対する税控除などの優遇措置を講じ、彼らが医療の研究開発を通じて社会に貢献する道をつくってほしいと思います。

──超高齢社会の到来とともに、健康寿命の延伸が重要課題になっているが、どのように取り組むべきか。

健康寿命を延ばすためには、何が健康の阻害要因になっているのかを考えるべきです。高齢者の健康状態は、40歳前後からの生活習慣が大きく影響してくることが明らかになっています。

日本は出生時から死ぬまで、生まれてすぐの母子保健から乳幼児保健、学校保健、産業保健、地域保健と、全国民が毎年健康診断を受けるよう法律で定められた世界でも数少ない国の一つです。この膨大な健診データは生活習慣と健康の因果関係を解明するうえで貴重です。しかしもったいないことに、この健診データはこれまで全く継続的な管理がされていませんでした。

幼少期から少年期、青年期、中年期、高齢期へと継続的なデータを分析すれば、今のままの生活習慣を続ければ何歳ごろどんな病気が発症しやすいのか予測がつき、今からどのように生活を変えれば長く健康でいられるかの健康指導が、かなり的確にできるようになるでしょう。また医療を行う者も、過去のデータをさかのぼり、この病気の原因がどんな生活習慣によるものなのかが特定しやすく、治療の指導もしやすくなるはずです。

こうしたデータを、企業や地域の予防・健康づくりや治療指導に生かす取り組みは、少しずつ始まっています。厚生労働省は15年、塩崎恭久厚生労働大臣(当時)が旗振り役となり、若く優秀な医師や研究者、官僚を集めて、20年後の保健医療のあり方を見据えた「保健医療2035」策定懇談会を立ち上げました。データやさまざまなテクノロジーを活用し、20年後の超高齢社会においても対応できる保健医療システムをどうつくっていくのかを真剣に議論し、提言書を取りまとめています。

このなかから、健康保険組合の健診データを活用して企業の保健指導をサポートしたり、慢性疾患の患者に対する遠隔医療、在宅医療等の事業を行うなど、ベンチャーが複数立ち上がっています。志を持った優秀な医師が、日本の保健医療のあり方を変えようと、自ら事業を立ち上げている。誇るべきことであり、期待しています。国はこうした企業をサポートし、連携していくべきでしょう。

構成=嶺 竜一 イラスト=山崎正夫

メリンダ・ゲイツピジョンマツダ

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