──日本は欧米に比べ医療後進国であると言われて久しい。日本の医療に足りないことは。
前提として言えることは、日本は医療技術、医療制度、医療保険、すべてにおいて非常に整っているということです。WHO(世界保健機関)の発行するWorld Health Reportでも、世界最高レベルの医療制度が達成されていると認められています。世界の多くの国が今、日本の医療システムを導入しようとし、我々はそのサポートをしています。
アメリカはかなり実験的な医療まで認められるため、特定の医療技術では非常に進んでいますが、一般の高度先進医療レベルでは今や日米の差はほとんどありません。アメリカで高度医療を受けるためには桁違いの医療費がかかりますが、日本は1961年に始まった国民皆保険により、世界最高レベルの高度医療を誰でも平等に受けられる稀有な国です。
ただし少子高齢化で社会保障を支える人間が減ってくるなかで、財政的な課題に直面していることも確かです。今後、予防医療や在宅医療、介護も含め、どのような医療体制をつくっていくべきかという議論が、ますます必要になってくるでしょう。政策的な課題、倫理の課題、教育・研究の課題など、さまざまな課題を解決しなければならない。日本医師会では、医療政策会議、生命倫理懇談会、学術推進会議という3つの会議体を持ち、議論を進めています。
──日本は先進医療の臨床への導入が欧米に比べて遅れているという批判がある。
確かにかつての日本は、ドラッグ・ラグ(新薬の治療薬としての承認が海外に比べて遅いこと)やデバイス・ラグ(先端医療機器の臨床での使用承認が海外に比べて遅いこと)があると指摘されてきました。
しかし2004年にPMDA(医薬品医療機器総合機構)が発足してから、承認機関の組織改革が行われ、近年は米国とほぼ同じスピードで臨床への導入がされるようになってきました。非常に大きな進歩です。新しい医薬品や医療機器の開発・導入について、PMDAが治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査しているためです。
高額な治療薬や医療機器が次々に保険適用になれば、医療費が増大し、財政を圧迫するため先進医療の承認を厳しくするべきという意見もあります。しかし私はそれが本当に有効な治療方法であるならば、生涯にかかる医療費をトータルで考えれば医療費増にはならないと考えなのは開発費用が大きいためで、普及すれば価格は下げられます。むしろ広く使ってもらえる環境をつくっていくべきです。