アート界をゆるがす「ロックフェラーの至宝」売却の裏側

クリスティーズ・ロンドン、6月26日「近代イギリス&アイルランド美術」プレビュー会場。中央の彫刻はヘンリー・ムーアの《ファミリー・グループ》。


そのようなタフな条件交渉の果てにコレクションを獲得する決め手は、往々にして該当する分野に優れた専門家を抱えているか、魅力的なファイナンス条件を提示できるかにかかっている。そのためにも、オークション会社は競業他社、投資銀行等の優秀な人材に好条件を提示して引き抜いたり、経営資源の選択と集中を推し進めて体質を強化する時代になってきた。

当たり前と思われるかもしれないが、一昔前まではアートに情熱をもつ者が手弁当感覚で働き、それぞれの分野の専門家の権限は絶対的で、それを経営側がコントロールすることは困難を極めた。弁護士と弁護士事務所、医者と病院の関係を思い浮かべていただくとわかりやすい。

なので、セルッティはCEOに就任するや否や、200人近くの人員削減を電光石火のごとく断行してまで、ロンドンのオークション会場を2カ所から1カ所に集約した。

一方で、社員でありながら極めて独立した存在であり、組織の締め付けを嫌う美術分野の権威たちを御するだけでなく、あるときには鼓舞するのもオークション会社CEOの重要な任務だ。

そのような点でも、経営に大鉈を振るいながらもアートに対する情熱を持ち、前回のヴェネチア・ビエンナーレ2015の話をすれば、「日本館のアーティスト、塩田千春の作品っていいね」とさりげなく言える感性を併せ持つ、セルッティのような経営者の存在が欠かせないのだ。


バックヤードで出番を待つオークション台。左はクリスティーズジャパン林千枝代表取締役社長。この台上でオークショニアがハンマーを振い、アートの市場価格が決定する。

文=石坂泰章

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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