「ラッシュの製品の40%は包装なしの裸売りです。通常の化粧品ではコストの60%がパッケージ費ですから、ゴミだけでなくコスト削減にもなり、その分を新鮮でこだわりのある原材料に当てることができます」
シャンプーやマッサージオイルなど液状が一般的なものも、固形化することによって、裸のまま販売できるようになった。水の使用量削減と軽量化、保存料の不使用にもつながり、いいことずくめだという。
「製品は無論、小売業にとって重要なのは接客。店員にはバトラー(執事)としてお客さんに接してもらっています。『ラッシュは優しさのオアシス』と言われたことがあり、最高の賛辞だと思いました」。
コンスタンティンは頻繁に、Kindness=思いやり、優しさの大切さを口にする。
「日本人は親切さではピカイチですが、生真面目で物事を深刻に考えがち。そこで日本の売り上げが低迷したとき、世界中の店長をイギリスに呼んで店長会を開きました。スタッフの気分も売り上げもぐっと回復しています」。以後、この集会は毎年継続しているとのこと。コンスタンティンの人柄に触れるなら、企業への理解も愛情も深まるというものだ。「働きたい企業トップ100」の常連というのもうなずける。
ラッシュは広告を打つこともしない。代わりに、LGBTや難民支援など、販促とは無関係なキャンペーンを店舗やウェブサイトで展開してきた。最新キャンペーンはEU離脱に異議を唱える「移動の自由」というものだ。「EU離脱はビジネス面だけでなく、自由な移動を妨げるという人権面からも支持できません」。
長いものには巻かれないというイギリス気質。政治問題で揺れるなか、ぶれずに信念を貫く姿にイギリスの底力が見えてくる。湯に投じるとシュワシュワと色と香りが湧き上がるラッシュの看板商品「バスボム」のように、コンスタンティンが投じる一石には、じわじわと草の根から社会を変える力が秘められている。
マーク・コンスタンティン◎1953年英国生まれ。毛髪学者としてヘアケア&ビューティプロダクトの開発・販売を経て、1994年にラッシュを共同創設。2010年にOBE(大英帝国勲章)受勲。調香師として商品開発も継続。