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2017.10.01 11:30

私が26歳ですべての医者を「クビ」にした理由


たとえば南カリフォルニアのシーダーズ・サイナイ病院では、術後の患者さんにVRグラスを渡して、旅行で行ってみたい場所の映像や、可愛いキャラクターが出てくるアニメーションなど好きなものを見せて気を紛らわせ、痛みを忘れてもらえるかというクリニカル・トライアルをしています。

スタンフォード大学病院でも同じような試みを始めていて、私自身も試用しました。そんなに期待していなかったのに効果絶大で、驚きました。雪原でペンギンを捕まえるというゲームでしたが、面白くて夢中になってしまい、実験が終了した時には一瞬自分がどこにいるかわからなかったほど。我に返ったら殺風景な小部屋にいるのが信じられませんでした。

VRは脳梗塞の予後のリハビリでは広く使われていますし、メニエール病(編集部注・激しいめまいと難聴・耳鳴り・耳閉感の4症状が同時に重なる症状を繰り返す内耳の疾患)の患者さんにも使われています。

また、教育ゲームとしても使われています。「Re-Mission」と呼ばれるゲームは、既に市場に出て数年になりますが、プレイヤーが体内でがん細胞を退治するゲームです。若年がん患者向けに病気への理解を深め、闘病に積極的な姿勢を導くことで、治療にも役立っているという研究結果もあります。


若年がん患者向け教育VR「Re-Mission」

過剰な情報にどう対応する?
 
近い将来、自分自身の健康に関して、広大な情報を収集することができるようになります。それを使って、どうしますか? 過剰な情報に埋もれてしまう心配はないでしょうか。

追跡した健康情報を一元管理してくれる情報プラットフォームは今注目され、マーケットシェアを拡大しつつあります。現在、多くの巨大テックプレイヤーがしのぎを削っていますが、一つの例は、クアルコム・ライフの「2netプラットフォーム」です。

メディカル・デバイスやセンサーの情報を取得、送信、集計してくれるクラウドベースのシステムです。同プラットフォームは、クアルコムライフのケア・コーディネーションのプラットフォームと同期しており、心臓発作や、急な血圧の上昇などの急変事態も、介護人にアラートで知らせる仕組みもあります。
 
私自身も、専用のポータル・サイトにあらゆるデータを記録・保存して、医師はじめ医療チームと共有しています。クラウドのおかげで安く、手軽にデータの保存・管理ができるようになりましたね。米国では、病院や保険会社が患者や加入者にマイページを提供。ほとんどの患者が使っていると思います。

医師とのコミュニケーションも、診療や検査のアポイントメントをとるのもポータル経由。患者には実に便利な時代になりました。私は数週間ごとの定期検診も、3カ月ごとの血液検査も訪問看護師さんに自宅にきていただいています。検査結果はリアルタイムで医療チームと共有でき、何か問題があればすぐ医師に遠隔診療してもらえます。

レミケードの点滴も自宅の居間で受けます。病院より居間の方が快適、病院への往復時間も不要、なにより細菌感染のリスクが回避できて安心。こういう条件は、すべて自分で医師・医療機関・保険会社と交渉して実現しました。いずれも技術進歩の恩恵です。私だけが特例なのではありません。患者の希望が実現できる時代になったのです。

私は起業家としてヒト細胞のp53プロテインを修復してがんを治療する新薬を開発しています。BenevolentAIのAI技術で開発手法を最適化しながら進めていますが、AIプラットフォームが利用できるようになって創薬の研究開発の効率は格段に向上。開発が加速しています。

患者のために役立つ新しい技術がたくさん開発されています。最先端技術とそのベネフィットを、世界中のすべての患者の方にわかりやすく伝えたい。それが私のミッションです。そのために本を書き、講演もしています。でもまだ日本には行ったことがないので、ぜひ行ってみたいと思っています。

文=西村由美子 構成=岩坪文子 写真=Ramin Rahimian

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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