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2017.11.07

全国の水道事業体、「9割が黒字」というフェイク

岩手中部水道企業団局長、菊池明敏


毎日、水道管が破裂し、水を噴く現状を見ている若手・中堅には焦燥感と危機感があり、多くの参加者が統合の必要性を感じていた。

会議体を作ってから1年半の間に、正式な会合だけでも23回開いた。会合後の飲み会の場でも「このまま何もしないで、水道事業はやっていけると本当に思っているのか!」と怒号が飛んだ。

統合しなければ大幅な料金の値上げ

2010年から2038年までの水道料金のシミュレーションを行ったところ、統合をしなければ、紫波町は約75%、花巻市は約45%、北上市は10%の値上げが必要だという結果になった。一方、三市町が統合した場合は、設備の効率化が進むため、水道料金は数%程度の値上げて収まることも分かった。

関係市長や町長を説得し、委員会発足から苦節10年を経た2014年、ついに三市町の水道事業体の日本初と言われる統合が行われ、岩手中部水道企業団が生まれた。「実現するまでは、言えないような辛いことも沢山あった。統合に関する覚書を結ぶまでは夢でしかなかった」と菊池は振り返る。

現在、岩手中部水道企業団は2014年から2024年までに、34あった浄水場施設を21施設に減らす計画を進めている。3年経った今、既に5つの浄水場を閉鎖している。菊池は前倒しで計画を進めたいと意気込む。


優良公営企業総務大臣表彰 講演を行う菊池氏

菊池には苦い思い出がある。過去、破たんに突き進む下水道の財政問題を可視化し、年間20億円近くかけていた事業費を、2年後には2億円にまで激減させた。もちろん、それは住民全体にとって良いことだ。しかし、その陰では田舎にある地元業者の仕事を急激に奪うことにもつながった。当時、「何組の家族を路頭に迷わせたのか?」と、夢にも出てきて寝られない夜もあったという。

今でもそれは菊池のトラウマだ。だからこそ、全国の水道事業体に対して、安定した経営を行ってもらうべく、講演や国の委員などを通じて警鐘を鳴らしている。「墓の中に入った時に『しっかりした水道になっているな』と納得して、皆で酒盛りをしたい」、菊池はそう言葉を残した。

文=加藤年紀

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