「今までLGBTの人たちは透明人間だった」と永田は言う。LGBTの人は存在しないものとして扱われていたため、行政のさまざまな窓口がLGBTに対応できていない、という意味だ。
例えば、『女性・子育て課』という名前の部署でDVの相談を受け付ける場合、基本的には“異性愛の女性”が来ることを前提としている。それでは、男性のDV被害者、ゲイやレズビアンの同性カップルはなかなか相談ができない。
LGBTというとパートナーシップ制度が注目されがちだが、その受益者の数は限られている。つまり、注力すべきはそこだけではない。
「行政がお金をかけて何か新しいことをやるよりも既存の福祉サービス、セーフティネットが、ジェンダーやセクシュアリティの隔てなく対応できる体制になるほうが受益者は多い。しかも、追加のお金を一銭もかけずにできることです」と永田は言う。
進む民間企業のLGBT対応
民間へ目を向けると、LGBTへの対応が進む企業は増えてきている。パートナーシップ証明書があれば、保険金の受け取り、携帯電話の家族割、航空会社の家族間のマイレージ共有なども可能となることもある。
永田はこう見る。「先進的な企業の活動は日本でLGBTの認知を広げるうえでの助けになったと思います。しかも、彼らは商品・サービスをLGBTに対応させることを通じて、従業員の福利厚生や人事制度でも取り組みを深化させました。それが今の日本に起こっているムーブメントをすごく後押ししてくれていると思います」
かつて、松下幸之助は「企業は社会の公器である」と述べた。企業、そして、そこに属する個々人が公器としての自覚を持ち、LGBT当事者に向き合うときが来ているのではないだろうか。彼らは決して透明人間ではないはずだ。